<ポイント>
◆原告から「形態模倣」を主張する際にデザイン過程や労力等を投下したことを主張立証が出来なかったことが不利に斟酌された事例
1.事案の概要と請求
本件は、原告(衣料品、革製品等の輸入及び販売等を目的とする会社)が、被告(通信販売等を目的とする会社)に対し、被告が販売するバッグ(被告商品1)及び財布(被告商品2)が、原告が販売するバッグ(原告商品1)及び財布(原告商品2)の形態を模倣したものであると主張し、不正競争防止法2条1項3号に基づく不正競争行為に当たると訴え、不法行為に基づく損害賠償金443万7059円と遅延損害金の支払いを求めた事案である。
原告は、原告商品1を令和2年8月から、原告商品2を令和元年7月からそれぞれECサイトで販売していた。一方、被告の取締役は、令和3年6月5日に原告各商品を購入しており、被告はその後(令和3年6月5日より後に)被告各商品の販売を開始した。
2.争点
本件の主な争点は以下の4点である。
1. 原告が損害賠償請求の主体となるか(争点1)。
2. 被告商品1が原告商品1の形態を模倣したものであるか(争点2)。
3. 被告商品2が原告商品2の形態を模倣したものであるか(争点3)。
4. 原告の損害額(争点4)。
原告は、自社でデザインを立案し費用を投下しているため、請求主体となると主張しましたが、被告は、原告が具体的な開発過程や特段の費用・労力を立証していないため、保護の必要がないありふれた形態であり、請求主体とはならないと争った。
3.裁判所の判断(争点2および3)
裁判所は、事案に鑑み、まず争点2(バッグ)および争点3(財布)について判断した。不正競争防止法2条1項3号の適用には、「模倣」の要件として先行する商品形態と実質的に同一であること(不競法2条5項)が重要になる。
(1) 争点2:バッグ(原告商品1と被告商品1)の形態模倣性
共通点: 両商品は、バッグの横幅(23センチメートル)や高さ(19センチメートルまたは18.5センチメートル)が近似している点、外側にオープンポケットがある点、2枚合わせの生地のハンドルがある点、そしてバッグ内部が4つの仕切られた収納部を持つ点など、一見すると全体的な印象に共通する部分があると認められた。
先行商品との比較と相違点による判断:しかし裁判所は、原告商品1と被告商品1の共通する各形態は、原告商品1の販売開始日以前から既に存在していた先行同種商品に見られる形態であり、ありふれた形態の域を出ていないとして、実質的同一性の判断において重視することはできないとした。
一方、両商品には、以下の重要な相違点が認められた。
• ハンドルの持ち手高: 原告商品1は8センチメートルに対し、被告商品1は10.5センチメートル。
• タグの有無: 原告商品1にはバッグ前面に縦約3センチメートルの長方形のタグが存在しますが、被告商品1にはタグがない。
• ハンドル取付部の縫い目と補強鋲: 原告商品1には丸型の補強鋲があり、「□」及び「×」状の縫い目がないが、被告商品1には補強鋲がなく、約4センチメートル四方の「□」状、「×」状の縫い目がある。
裁判所は、ハンドルの取付部の縫い目の形状や、バッグ前面のタグの有無といった相違点は、需要者が最も注目する部分であり、バッグ全体の形態に対する需要者の印象に影響を与える相違点であると認定した。
結論(争点2): これらの相違点と、共通部分がありふれた形態であるという点を考慮し、原告商品1と被告商品1の形態は実質的に同一であるとは認められないと結論づけた。したがって、被告商品1は原告商品1の形態を「模倣」したものであると認めることはできないと判断した。
(2) 争点3:財布(原告商品2と被告商品2)の形態模倣性
共通点: 両商品は、長方形で一角が丸みを帯びている点、高さや幅が近似している点(高さ9 cm vs 9.5 cm、幅11.5 cm vs 11.3 cm)、内部に小銭入れと両側面に2つずつのカードポケットを備える点、そしてL字型のチャックを備えている点で共通していた。
先行商品との比較と相違点による判断: バッグと同様に、これらの共通形態(形状、内部構造、チャック形式、近似寸法)は、原告商品2の販売開始日以前から既に存在する先行同種商品に見られる形態であり、実質的同一性の判断において重視することはできないとした。
相違点: 両商品には、外部の凹凸や模様の有無に相違があった。
• 外部の素材と模様: 原告商品2は外部全体が凹凸のない「本革」であるのに対し、被告商品2は外部全体が斜めの網目模様が施された「合成皮革(PU)」であった。
裁判所は、素材の違いによる「光沢及び質感」(不競法2条4項)の違いに加え、凹凸のある網目模様の有無は、「商品の外部の形状」(同条項)として相違しており、これらは財布の需要者にとって強く関心を有する部分であるため、商品全体の形態に対する需要者の印象に影響するものと判断した。
結論(争点3): 上記相違点を重視した結果、原告商品2と被告商品2の形態は実質的に同一であるとは認められないと結論づけた。したがって、被告商品2は原告商品2の形態を「模倣」したものであると認めることはできないと判断した。
4.結論
裁判所は、争点2及び3の判断において、原告が原告各商品の形態について、デザイン過程や労力等を投下したことを直接示す証拠を一切提出できなかったという訴訟経過を指摘した。この事実は、そもそも原告商品1および2の形態が、不競法2条1項3号により保護されるべき「他人の商品の形態」に当たるか(争点1)についても疑義があることを示唆すると述べている。
争点2および3において形態の模倣性が認められなかったため、原告の請求は理由がないとして、原告の請求はいずれも棄却された。
