大量保有報告書に関する金融商品取引法施行令等の改正

<ポイント>
◆重要提案行為等を行うことを予定している場合も大量保有報告書に記載が必要
◆保有割合を5%超の割合で増加させる行為の予定のある場合も記載を

 

令和6年5月15日に改正され、同月22日に公布された金融商品取引法(令和8年5月1日施行予定)の政令(同法施行令及び株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令)が、令和7年7月4日に公布されました。
上記改正法は、「大量保有報告書に関する金融商品取引法の改正」の記事で述べたとおり、「共同保有者」の保有分を合算した保有分に対する、いわゆる5%ルール(1%の増減による変更報告書の提出を含む)の適用について、協働エンゲージメントの支障とならないよう明確化が図られています。
上記政令では、共同保有者間で株主権行使の合意をしている場合でも5%ルールが不適用となる特例の要件の重大な要素である、「重要提案行為等」及び特例対象者等についてさらなる明確化と変更が図られました。
ただし、特例対象者は、国内では、第一種金融商品取引業者、投資運用業者、銀行、信託銀行、保険会社、農林中央金庫及び商工組合中央金庫といった、いわゆる機関投資家が主体であり、その範囲に限定されています。
本稿では、共同保有者についての改正以外の改正に注目し、上記内閣府令に規定されている大量保有報告書の記載事項のうち、「保有目的」欄の見直しについて述べます。

現行制度では、「保有目的」欄の記載事項については、「純投資」、「政策投資」、「重要提案行為等を行うこと」等の目的及びその内容について、できる限り具体的に記載すること、複数ある場合にはその全てを記載することとされています。
しかし、従来、実務においては、「保有目的」欄に「純投資」と記載して大量保有報告書を提出して、市場内での買付けにより一定数の株式を保有した後、突然、「重要提案行為等を行うこと」を記載すること、また、「重要提案行為等を行うこと」の具体的内容を記載しないことは少なくありませんでした。

改正府令では「重要提案行為等を現に行い、又は行うことを予定している場合には、その内容(例えば、当該重要提案行為等の具体的な内容、当該重要提案行為等を行う時期、当該重要提案行為等を行う条件、当該重要提案行為等の目的)について、できる限り具体的に記載すること、複数ある場合にはその全てを記載すること」が追加されました。
これにより、重要提案行為等を行うことを予定している場合にも具体的内容の記載が求められることとなりました。

また、①保有割合を5%超の割合で増加させる行為を行うことについての決定をしている場合、②大量保有報告書の提出、保有割合の増加を提出事由とする変更報告書の提出をする場合であって、これらの報告書の提出義務が発生した日から3月以内に保有割合を5%超の割合で増加させる行為を行うことを予定している場合、その内容(例えば、取得を行う株券等の種類、取得の時期、取得価格、取得を行う株券等の数量、取得の目的、取得の方法、取得の相手方)をできる限り具体的に記載することが追加されました。
上記①については、増加する保有割合が5%以下である買付けを複数回行い、その結果5%超増加した場合でも、当該複数の行為が一連の行為といえる場合には全体として5%超増加行為となる場合もありえます。
また上記②について、5%ルールにより大量保有報告書を提出する際やその後の1%超増加による変更報告書を提出する際、追加取得の目的がある一定の場合には、その旨の開示が必要となりました。

重要提案行為等を現に行う場合や5%超増加を決定している場合については、必要な最終の機関決議のあった場合が該当するものと思われます(私見)。
重要提案行為等を行うことや5%超増加を予定している場合について、「予定している場合」とは一定の蓋然性・具体性がある場合とされています。
「蓋然性・具体性がある場合」とは、パブコメ回答からすれば、当該行為の実施に向けた業務が行われ、当該行為を行うことが具体的に見込まれる場合、また実質的に決定権限を有する者が決定した場合(最終の機関決議は未了)をいうようです。
したがって、たとえば、大量保有報告書の提出義務を負った潜在的買取者が、3ヶ月以内にさらに追加で事前取得行った上で公開買付けを実施することを予定している場合には、当初提出する大量保有報告書において、追加の事前取得や公開買付けの内容を開示することが求められることになります。
このように大量保有報告書については規制強化が目指されていますが、これまでの緩い対応からの変化がみられるか注視されるところです。