<ポイント>
◆基本契約を締結しないことにはリスクがある
◆基本契約を締結せずとも民法等の法令の適用がある
◆民法等の法令のみではトラブルを解決できないケースがある
「継続的な取引を行う場合には基本契約を締結しましょう」というようなアドバイスを受けたことがある方は多いと思います。また、基本契約を締結しておけば、その後の個別契約(特定の個別の取引のたびに締結される契約のこと)において契約の条件を逐一定める必要がなく便利である、というような助言を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
このように基本契約締結のススメがありふれているにも関わらず、基本契約を締結していない企業は決して少なくない印象です。このような企業の方になぜ基本契約を締結しないのかを質問したところ、「基本契約なして長年取引を継続してきたが、特に何の問題もない。トラブルが起きても話し合いで解決できた。」というような回答があることが多いです。逆に、基本契約の存在自体を知らない方はいませんでした。
このような回答を受けて私が感じたこととしては、基本契約のメリット自体はある程度周知されているが、基本契約を締結しないリスクについてはあまり知られてないのではないか、ということです。そこで、以下では基本契約を締結しない場合のリスクについて解説しょうと思います。
基本契約とは、ある特定の取引先との間で継続的に取引が行われる場合に、全ての取引に共通する基本的なルールを定める契約をいいます。定められるルールは多岐にわたりますが、例えば、代金の支払い方法・時期、商品の引き渡し時期・方法、損害賠償義務の範囲等です。ここで重要なのは、基本契約を締結しないとルールが全く無い状態になるのではなく、民法を含む法令の適用があるという点です。売買が行われた場合には、基本契約を締結していなくとも、民法のうち売買に関する条項の適用があるのです。そのため、実は冒頭に紹介した「(基本契約がない状態で)トラブルが起きても話し合いで解決できた。」という台詞には一理あるのです。基本契約がなくても民法はあるのだから、民法に従って解決すれば問題は起きません。
しかしながら、全てのトラブルが民法等の法令に従って上手く解決できるわけではありません。その一例をご紹介します。
AとBとの間で、Aを売主、Bを買主とする継続的な売買契約が行われていました。ところが、ある日突然、Bが破産してしまいました。しかも、AはBが破産する直前にBに商品を納品していたのです。AとしてはBが破産した以上、代金回収は絶望的ですので、商品だけでも取り返したいと考えました。不幸中の幸いで、納品が破産直前であったため、商品はまだBの倉庫内に存在します。このようなケースで、Aは商品を取り返せるでしょうか。
このようなケースに対する回答としては、基本契約を締結していれば商品を取り返せる(ことが多い)が、締結していなければ商品を取り返せない、ということになります。これに対して、「代金の支払いが済んでいないのであれば商品はAの物だし取り返せるのでは?」という素朴な疑問を抱いた方は良い感覚をお持ちです。しかしながら、実は、民法においては、商品の所有権は売買契約成立時に移転する旨の定めがあるのです。そのため、上記のケースでは所有権は既にBに移転しているのです。Bに所有権が移転しているため、AがBに商品の返還を請求することはできません。このような不都合を想定して、多くの売買基本契約では、代金支払い時に所有権が移転する旨の条項が定められています。そのため、一般的な売買基本契約を締結していれば、所有権に基づき商品の返還請求をすることができることになります。
上記はほんの一例で、基本契約を締結していないことのリスクは多岐にわたります。リスク回避のため基本契約の締結をご検討下さい。
