下請法から取適法へ

<ポイント>
◆資本金基準に加えて従業員数基準ができた
◆特定運送委託等が追加された
◆価格協議の義務化及び手形払等が禁止された

 

令和7年5月16日に「下請代金支払遅延防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が成立し、同月23日に公布され、令和8年1月1日から施行されることとなりました。
その背景・趣旨として、近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、「物価上昇を上回る賃上げ」を実現するためには、事業者において賃上げの原資の確保が必要であるということが挙げられています。
これにより、従来の下請代金遅延防止法(以下「下請法」といいます)は製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(「中小受託取引適正化法」または「取適法」と略されるようですが、本稿では「取適法」といいます)に名称が変更されることとなりました。
また、法律の内容も改正されましたので、以下にその概略をみていきます。

取適法の適用対象として従業員数基準が導入されました(常時使用する従業員数です。以下同じ)。
下請法では資本金基準だけが規定されており、取適法でも資本金基準は同様に承継されましたが、それに加えて従業員300人超の法人事業者が従業員300人以下の法人事業者等に委託する場合に法の適用対象になるという「300人基準」と、従業員100人超の法人事業者が従業員100人以下の法人事業者等に委託する場合に法の適用対象になるという「100人基準」が導入されました。
資本金基準と同じく従業員基準についても委託業務によって適用、不適用があり、100人基準は情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管および情報処理を除く)にのみ適用されます。

取的法の適用対象として特定運送委託等が追加されました。
メーカーや卸売事業者等が、荷主として、自社で製造した製品や自社で販売する商品の顧客向けの運送を運送会社に委託することは、いわゆる自己利用役務(自ら用いる役務)として、下請法の対象外とされていました。 
しかし、立場の弱い物流事業者が荷役や荷待ちを無償で行わされているなど、荷主・物流事業者間の問題が顕在化していることなどを踏まえ、取適法では、荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引を、「特定運送委託」として新たな規制対象に追加することとされました。
また、金型以外の型(木型、樹脂型等)や治具等についても、メーカー等が製造する物品と密接な関連性を有しており、他の物品の製造のために転用できないことについては、金型と異なりません。
そこで、取適法では金型以外の型等の製造委託を適用対象に追加しました。
 
委託事業者(下請法の親事業者)は中小受託事業者(同下請事業者)と価格協議をすることが義務化されました。
対等な価格交渉を確保する観点から、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、委託事業者が必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為が禁止されることとなりました。

手形払等が禁止されることとなりました。
下請法においては、支払手段として手形を用いることができ、下請事業者は金融機関などで割引料を支払って現金化することにより事業資金化するという商慣習がありました。
しかし、これでは資金繰りに係る負担を下請事業者に負わせることになります。
そのため、取適法では支払手段として手形を認めないこととし、電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては認めないこととされました。
なお、支払期日は、納品された日または役務の提供がされた日から60日以内であり、これは取適法でも承継されています。