<ポイント>
◆算定対象株式の特定方法について総平均法を採用した事例
1 はじめに
大阪地方裁判所は、令和7年5月9日判決(平成27年(ワ)第12444号)において、有価証券報告書等の虚偽記載について、当該報告書等の提出者である被告会社に民法709条に基づく法人の不法行為責任を認め、損害について、いわゆる総平均法の考え方に基づいて算定しました。
2 事案の概要
本件は、被告東芝が発行する株式(以下「本件株式」)の取引をした原告らが、被告東芝の有価証券報告書等には、重要な事項についての虚偽記載があるなどとして、被告東芝に対しては、金融商品取引法(以下「金商法」)21条の2、民法709条に基づき、被告役員らに対しては、金商法24条の4が準用する22条、民法709条、719条、会社法429条1項及び2項1号ロ、並びに430条に基づき、損害賠償金を連帯して支払うよう求めた事案です。
なお、判決文は裁判所HP「裁判例検索」で検索できますが、具体的な金額については開示されていませんでした。
報道によると、「関西地方などに住む東芝の個人株主や元株主185人は、2015年に発覚した東芝の組織的な不正会計問題で株価が下がり損害を受けたとして、東芝と元社長などの旧経営陣に対し、合わせて7億3000万円余りの賠償を求め」、「原告のうち120人に対し、合わせて1億300万円余りを支払うよう命じた」とのことです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250509/k10014801611000.html#:~:text=2015%E5%B9%B4%E3%81%AB%E7%99%BA%E8%A6%9A%E3%81%97%E3%81%9F,%E8%A8%B4%E3%81%88%E3%81%AF%E9%80%80%E3%81%91%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
3 裁判所の判断
裁判所は、被告役員らの損害賠償責任については、原告らが、虚偽記載を基礎づける具体的な事実について主張立証していないから、同記載の存在を争っている被告役員らとの関係において、虚偽記載があったとは認められないなどとして、これを否定しました。
他方で、被告東芝の損害賠償責任については、被告東芝は、原告ら主張の虚偽記載の一部につき争わないと明確に主張しており、同範囲が虚偽記載であることが判断の前提となるところ、法人としての被告東芝は、有価証券報告書等の提出に当たり、その重要な事項について虚偽記載がないように配慮すべき注意義務を怠ったものとして、原告らに対して民法709条に基づく損害賠償責任を負うと認められるとしました。
損害については、総平均法の考え方に基づき算定し、請求を一部認容しています。
4 判決文の引用
本判決は、総平均法を採用するに際して以下のように判示しています(裁判所HP判決p45~)。
「イ 算定対象株式の特定方法について
原告らは、算定対象株式の特定に当たっては、先入先出法を用いるべきであって総平均法を適用する理由はなく、また、現物取引と信用取引とを区別することが合理的である旨主張する。
そこで検討すると、株式は、細分化された割合的単位によって把握される会社の構成員たる地位であって、個別の株式に個性はない。特に、被告株式は、上場廃止となるまで振替株式であり、株券が発行されず、特定の株券に表章された特定の株式が売買される関係にはなく、株式の取得及び処分は、その株式の持分割合の増減として把握されていた。このような被告株式の性質からすれば、個々の取得と処分とを紐付けせず、一定期間内の取得と処分とを割合的に捉えて取得単価を算定するという総平均法の考え方を算定対象株式の特定に用いることが相当である(ただし、前記⑸のとおり、取得時期に応じた修正については行う必要がある。)。 また、現物取引と信用取引は、投資資金の調達方法が異なるものの、いずれも株式売買の損益は投資者に帰属するから、損害額の算定において算定対象株式を特定するに当たっては、現物取引と信用取引を区別する必要はないというべきである。」