債権譲渡通知を受けた場合の対応について

<ポイント>
◆民法改正により債権譲渡通知を受けた場合の対応が容易になった
◆異議をとどめない承諾という制度は廃止された
◆譲渡通知を受けるまでに取得していた債権であれば相殺が可能に

 

民法改正(いわゆる債権法改正)により譲渡禁止特約のある債権でも債権譲渡が可能になったこと等もあり、今後もファクタリング等の債権譲渡が活発化することが予想されます。そのため、債権譲渡通知を受けた場合に備えて、債務者として、譲受人(新債権者)に対して、どのような主張をすることができるのかを整理しておく必要があります。なお、筆者がこの点についてインターネットの法律情報を確認すると、改正前民法と現行民法に関する記載が混在しているような印象受けました。そこで、以下では、簡単に改正前民法に触れつつ、現行民法の仕組みを解説したいと思います。

改正前民法では、債務者が異議をとどめないで承諾をした場合には、譲渡人(旧債権者)に対抗することができた事由(抗弁事由)があっても、譲受人に当該事由を対抗することができないとされていました。しかも、この異議をとどめない承諾というのは、債務者が抗弁事由を認識していたか否かに関わらず、債権譲渡がなされたことを認識した旨を債務者から譲受人に伝えただけで要件を満たすとされていました。要するに、債務者からすると、抗弁事由について意識しないまま譲受人とやり取りをしていると、後に抗弁を主張できなくなる可能性があったのです。もっとも、現行法では、異議をとどめない承諾という制度は廃止されました。そのため、債務者としては、異議をとどめない承諾をして抗弁を主張できなくなるという心配をする必要はなくなったわけです。

さて、それでは、債務者としては、譲受人に対してどのような抗弁を主張ができるのでしょうか。債務者の主張する抗弁の中で最も実用的なのは相殺の抗弁です。相殺の抗弁とは、例えば、債務者は譲渡人に対して譲渡された債権とは別に売買代金債権を有しているので、当該債権と譲渡された債権とを相殺する、というような主張です。この点、改正前民法には、相殺の抗弁に着目した条項は存在しませんでした。そのため、いかなる場合に相殺の抗弁が認められるかについては、学説上見解が分かれていました。これを簡潔に整理すると、①債権譲渡通知を受けるまでに相殺適状が生じていた場合に相殺ができるとする相殺適状説、②自働債権の弁済期が受働債権の弁済期よりも早く到来している場合にのみ相殺ができるとする制限説、④譲渡通知を受けるまでに債権を取得していれば足り、相殺適状である必要も、自働債権と受働債権の弁済期の前後も問わないとする無制限説が存在しました。現行法は、これらの説のうち、④の無制限説を採用しました。なお、本稿では割愛しますが、現行法では、債権譲渡通知を受けた後に取得した債権であっても、一定の場合には譲受人に対抗できるとされています。

以上のように、債権譲渡通知を受けた場合の債務者の対応としては、債権譲渡通知を受ける前に生じた債権による相殺を検討すれば良いわけです。改正前よりも対応が容易になったといえます。ただし、相殺については、その可否を十分に検討する必要があります。相殺をした場合において、後にその相殺が不適法であったことが判明すると、債務者は遅延損害金を加算して債務を弁済する必要があるからです。