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◆2025年6月にカスハラ防止措置を事業者の義務とする法が公布
◆施行時期は2026年末までのいずれかの時期
◆事業主が講じるべき具体的な措置内容は今後指針で示される
2025年6月11日に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」が公布されました。
この改正により、求職者に対するセクハラのほかカスタマーハラスメントを防止するために雇用管理上適切な措置を講じることが事業者の義務となりました。
この改正法の施行日は上記の公布日から1年半以内(2026年末まで)に政令で定められます。
今回はカスハラ対策の法規制についてご説明します。
カスタマーハラスメントとは、一般的には過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつける悪質なクレームなどを行ったりする顧客や取引先等からの著しい迷惑行為のことをいいます。
法的には以下の3つの要素 をすべて満たすものです。
(1)顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
(2)社会通念上許容される範囲を超えた言動により
(3)労働者の就業環境を害すること
この法改正により事業主は、(1)(カスハラを許さないという)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 (2)相談体制の整備・周知 ・発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置を講じなければならない、とされています。
事業主が講ずべき具体的な措置の内容等は、今後、指針において示される予定です。
また、自社の労働者が取引先等の他社の労働者に対してカスタマーハラスメントを行った場合、その取引先等の事業主が講じる事実確認等の措置の実施に関して必要な協力が求められた際は、事業主はこれに応じるよう努めるものとされています。
つまり、企業間の取引において自社の従業員が取引先に対しカスタマーハラスメントを行った場合には、企業として対応する必要があるということです。
さらに、カスタマーハラスメント対策を講じる際には、当然ながら、消費者の権利等を阻害しないものでのでなければならず、また、 障害者差別解消法の合理的配慮の提供義務を遵守する必要がある、とされています。
つまり、カスハラ対策を重視するあまり消費者の権利を極端にないがしろにしたり、(法で要求される)障害者への配慮を怠ったりしてはならないとの点にも注意が必要です。
街を歩いていると、顧客とおぼしき人物が長時間執拗にクレームを入れたり従業員を非難したりしている場面に出くわし、非常に不快になることがあります(明らかに度を過ぎている場合には、聞こえるように「しつこいなあ」と言ってしまったりもします。)。
顧客に対するきめ細かいサービスを当然とする日本において、カスハラ行為による社会的損失は軽視できないものがあり、今回のように政府主導で労働者の就業環境を守る対策も必要だと思います。
顧客の問題行動がどのレベルになれば違法となるのかは難しいところもありますが、法律で雇用主の防止措置義務が明確化され、具体的な指針が示されることにより、企業の責務も増える一方でこれにより従業員を守りやすくなったとも思いますし、過剰な要求を行ってきた顧客側も自分の行為が反社会的なふるまいであることを認識するきっかけになるのではないかと期待しています。