執筆者:気まぐれシェフ
2006年12月15日

よく道を尋ねられる。
自宅周辺に病院やホテルなどの大きな建物が多く、その割りに道案内の看板が少ないので初めて訪れる人には少々難しいのかもしれない。
多い時間帯は朝の出勤時。最寄駅の入り口付近がもっとも遭遇率が高い。
自宅を出る時間は、乗る電車の時刻から逆算し、さらに10分の余裕をプラスして割り出されている。なぜなら私が利用している電車はカメハメハ大王のような電車だからだ。風が強いと遅れ、雨が降ると遅れ、寒いと遅れ、天気のいい日ですら遅れる。だいたい週5のうち週2はおかしな時間にやってくる。だから余裕があるからといっても油断は禁物なのだ。

そんな緻密な計算も知らず、「あのー、ちょっといいですかー」とおっとりした口調で話しかけてくる彼ら。
私これから電車に乗ろうとしているんですよ?
こんなに足早に歩いているのに急いでいるのが伝わりませんか?
目の前のコンビニで聞いてくれませんか?
乗り遅れたら電車降りてからダッシュしなくちゃいけなくなるんですよ。
と言いたいところだけれど、不安げな目つきですがってくる人にそんなことなかなか言えるものじゃない。結局乗り遅れて息をきらすはめになる。

だから、駅の付近まで来たら、キョロキョロしている人がいないかすばやく視線を走らせ、怪しい人物とは目をあわさないようにササっと駅に駆け込むことにしている。かなり胸が痛むが仕方ない。ごめんね。朝だけは許して。
それでもなぜか目ざとく私を見つけて尋ねてくる人もいる。
そんな時は「この先に大きな交差点がありますからそこでまた人に聞いてください」とひと息に言える範囲にとどめ、あとは「そこ」にいた人に託すことにしている。よろしく。あとは任せた。

自宅周辺の建物のせいかと思っていたが、よくよく考えれば、梅田でもナンバでも荒本でも、どこにいても尋ねられることに気がついた。小汚い格好をしているから付近の住人がふらふら出歩いているとでも思われるのか。
しかし小汚くない(と思っている)格好のときでもやっぱり尋ねられる。
しかも大阪だけじゃない。神戸、京都、長野に北海道。旅行者が旅行者に尋ねられてしまうのである。
さらに日本だけじゃない。海外旅行先でも尋ねられることが多い。しかも日本人ではない人たちに。

なんでこんなにしょっちゅう?
おでこに「案内係」と書いてあるのか?それじゃあキン肉マンじゃないか。
聞き取り調査をしたところ、何かを知っていそうな雰囲気をかもし出しているらしい。方向感覚にだけは自信があって、出かける前に地図はだいたい頭に入れてしまうし、方角もどっちが北で南かなんとなくの感でわかる。人間に生まれていなかったらカーナビになっていたに違いない。よって、迷うそぶりなくスタスタと歩いているその姿は「あの人なら知っているかも」と思わせるのかもしれない。

つい先日、初めて大阪府庁本館に足を踏み入れた。とても広くて静かでほとんどひと気がなく、各所に配置された警備員さんがジロリと通り過ぎるまで私を監視していた。一歩ごとに自分の足音だけがカツーンカツーンと廊下中に響き渡って結構な緊張感だった。
そんな思いをしてせっかくやってきたのに、府庁と背中合わせに建つ真裏の法務局に書類を取りに行ってこなくてはならなくなった。こんな広いブロックを往復なんてとんでもない。ここはひとつ近道で行くべし。
背中合わせに建っているんだから、府庁にも法務局にもお互い背中側に通用口があるに違いない。裁判所にだって通用口があるんだものきっとある。そしたら背中と背中を移動できて最短距離ってわけよ。私ってあったまいいー。

というわけで、適当に府庁の背中側に向かって廊下を右に左に進んでみた。中庭のようなところに出たけどまだ背中まで到達していないようだ。さらに先へ進んでみたら食堂を発見。うどんが210円だって。安い。
なんて思いながらカツンカツンとさらに奥へ進んだ。おっ、通り抜けられそう。読みは当たった。さすが私。
ふと、関係者以外立ち入り禁止だったりして、と一抹の不安がよぎったが、この際気にしないことにした。そんな看板見てないし。職員の人が歩いていたけど別に止められなかったし。大丈夫大丈夫。つかまったら謝ろう。
廊下を左に曲がったところで、女の人とすれちがった。と、次の瞬間後ろから「ちょっとちょっと!」とその人に呼び止められてしまった。ああ、やっぱりダメだったのね。もうちょっとでゴールだったのに無念。

「トイレどこですかー?」
って、おいおい。