フタタとコナカの経営統合(敵対的買収の失敗例?)

紳士服チェーンの株式会社フタタをめぐり、株式会社AOKIホールディングスと株式会社コナカが、それぞれ経営統合を提案していた件は、8月17日、フタタが臨時取締役会でコナカと経営統合することを決議して決着がつきました。日本における敵対的買収の失敗例の一つにカウントされるかもしれませんが、少し前のライブドアによるニッポン放送株取得や村上ファンドによる阪神電鉄株取得、また、現在行われている王子製紙の北越製紙に対する株式公開買付け(TOB)とは少し様子が違います。

フタタの件は、8月6日、AOKIがフタタに対し、株式公開買付け(TOB)を行い、最終的にフタタを完全子会社にすることを提案したことが発端でした。AOKIは、8月7日付けの「株式会社フタタに対する経営統合提案に関するお知らせ」の中で、8月6日にフタタに対してTOBによる経営統合を申し入れたことを開示しています。その買付け予定株式数はフタタの発行済普通株式全株となっています。AOKIは、フタタ株全部を取得できなくとも、後で述べるように3分の2以上の株式を取得すれば株式交換によって全株を取得できるので、フタタの完全子会社化を達成できると考えたようです。

一方、コナカは、フタタとの経営統合について、8月16日付けの「株式会社フタタに対する経営統合提案の内容について」の中で株式交換によりフタタを完全子会社にすることを提案したことが開示されています。
株式交換による場合、フタタは株主総会を開催しなければならず、その株主総会で出席株式数の3分の2以上の賛成(特別決議)が必要になります。コナカはフタタ株の20.2%を保有しているということですが、これに加えて約47%の賛成が必要となります(合計で約67%となり3分の2以上となります)。新聞報道によれば、フタタの創業家が保有する株式は約40%ということです。フタタ創業家が一枚岩となって賛成すれば、フタタの株主総会で株式交換が3分の2以上の多数で可決される可能性は非常に高い状況となります。この賛成が得られれば、コナカは、フタタの全株を取得する代わりに、その発行済み株式数に株式交換比率を掛けた数のコナカ株式を新規に発行して、フタタの株主に割り当てることになり、コナカの発行済株式数は大幅に増加します。

結局、フタタがコナカと経営統合することを決議したためにAOKIの公開買付けは実施されませんでした。AOKIが敵対的TOBをしていたとしても、フタタ創業家の有する株式数のうちの過半数以上が応募してくれなければ、株式交換により100%子会社にするために必要な3分の2以上の株式を取得することはおろか、AOKIが望む取締役を選任するために必要な過半数の株式を取得することも難しいと言えます。そのため、フタタの了解を得てTOBを進めようとして経営統合の申し出を行ったのですが、フタタ創業家がコナカを統合先に選択したため、TOBの実施を断念したものです。この点で、王子製紙の北越製紙に対するTOBのように、経営陣の意向に反して行われた敵対的TOB事例とは異なるものです。

ところで、仮に、AOKIが敵対的TOBを実施していた場合、買付け予定数に達しなくとも、原則として応募された株式全部を購入しなければなりません。しかし、敵対的買収の場合には、公開買付けの条件として買付け予定数に達しない場合には応募株式全部を買いつけないことを定めることが多く、王子製紙の北越製紙に対するTOBではそういう条件がついています。AOKIが敵対的TOBを行っていたとしたら、当然、そのような条件を付けていたと思います。

また、上記AOKIが開示した情報ではフタタの全株式を予定株式数としていましたが、実際にTOBの申出をする際には予定株式数を引き下げていた(たとえばフタタの発行済株式の51%をAOKIが保有できる数に引き下げていた)と思います。なぜならば、TOBの届出者は、原則として、いったん届け出た買付け予定株式数を引き下げることはできず、上記のような条件がついている場合、予定株式数に達しないときにはTOBが不成立となるからです。ただし、TOB届出後に予定株式数に達しない見通しとなった場合、買付け予定数を超えた場合でも全株を買い受けるという条件のもとに買付け予定株式数を引き下げることは認められており、予定株式数を引き下げてTOBを成立させようとする場合もあります。