株式交換

ライブドア事件について、前回のメールマガジンであげた3つのキーワード-株式分割、株式交換、投資事業組合-のうち、今回は株式交換についておさらいしたいと思います。

株式交換とは、ある会社が別の会社を完全な子会社とするための方法です。
完全な子会社というのは、X社がA社の発行済み株式を100%取得することです。A社の株主は、A社株に代わってX社株を取得することになります。A社の株主が、X社株を何株取得できるかは交換比率により決まります。
これと同じ結果となる別の方法としては、X社がA社の株式を購入して代金をA社の株主に支払い、その代金をX社の新株発行の際に出資するという方法があります。しかし、この方法は迂遠な上に、A社の株主の中に譲渡に応じない者がいればA社を完全な子会社にすることができません。さらに、X社が上場会社の場合には有価証券届出書などを提出しなければなりません。
このような不備をうめるために、株式交換という制度が平成11年の商法改正でできました。また、平成9年に独占禁止法が改正されて持株会社が解禁されましたが、株式交換制度がなければ、既存の会社をスムーズに持株会社の子会社にすることができませんでした。

株式交換契約は会社間で結びますので、ライブドア事件では、ライブドアの子会社であるL社と出版社であるM社間で、すなわち両社の取締役会の決議をえてL社とM社の代表取締役が結びました。株式交換契約は株主が結ぶのではないので、株主が誰であれ、形式的にはこの時点で株式交換契約が成立したことになります。
株式交換契約締結後、各社の株主総会の特別決議を経て、交換日に株式交換の効果が発生することになります。たとえば、子会社の株式2株について親会社の株式1株を割り当てる契約であれば、子会社の株式100株を有する株主は親会社の株式50株を有する株主になります。子会社の株主の中には親会社の株式は欲しくないという人もいますが、このような株主は自分の株式を買取るよう請求することができます。
親会社は、子会社の株主に親会社の株式を渡すために、新株を発行したり、自社の金庫株を譲渡したりします。この一連の手続きがすべて終了すると、親会社は子会社の株式を100%取得し、子会社の株主は親会社の株式を取得します。

今回のライブドアの事件では、株式交換を発表した時点で、ライブドアは支配する投資事業組合にM社の株式を全株取得させており、実質的にはM社の100%株主になっていたということです。ただ、株式交換契約の情報を発表した時点で、先に述べた株式交換契約が成立していなければ、形式的にはそのアナウンスに嘘はありません。しかし、実質的な株式交換の意思決定はそれまでに行われていたので、その意味では証券取引法で要求される適切な時期での開示(適時開示)がなされていなかったと言えると思います。
また、M社の財務内容を粉飾し、交換比率を上げて過大な株数の新株を発行し、かつ、その株式をM社の元の株主に渡さずに市場で売却して、その売却代金の一部をM社の元の株主に支払い、差額を利益として計上していたということです。この一連の処理について、これらの行為や適時開示がなされていないことが証券取引法上の風説の流布等にあたるかどうかが堀江元社長の刑事裁判の焦点になりそうです。

刑事上の問題以外にも、以下のような問題があります。
M社の財務内容が粉飾されていれば、株式交換によりそれを引き継ぐL社の財務内容も粉飾される可能性が高くなります。不相当な交換比率による過大な新株発行は、L社の従来の株主が有していた1株あたりの純資産額が減少するという問題を生じさせます。また、M社の元の株主にL社の株式が交付されていなかった点については、M社の元の株主が投資事業組合に株式を譲渡する際の契約内容いかんによります。もし、この契約でL社の株式を渡すという約束であれば、M社の元の株主は投資事業組合の組合員(新聞報道でははっきりしませんが、ライブドア社またはその関連会社だと思います)に対してL社の株式の譲渡を請求することができますし、損害賠償請求も可能です。