弁護士のエッセイ

2012年05月01日
環太平洋法律家協会(IPBA)デリー大会

2月29日から3月1日までIPBA(Inter―Pacific Bar Association、環太平洋法律家協会)の総会がインドのデリーで開催された。
IPBAとは、環太平洋でビジネスローを取り扱う弁護士が弁護士間の情報ネットワークをつくる機会を提供することを目的とした団体で、1年に1度、各国の持ち回りで開催される総会が主たる活動である。
IPBA総会はゴールデンウィークあたりで行われることが通例となっていたが、デリーは2月から3月にかけてが一番いい季節である、というかこの季節以外は暑すぎるということで、若干前倒しで開催されることになったそうである。
私は、IPBA総会は2007年の北京大会、2010年シンガポール大会、2011年京都・大阪大会に引き続いて4回目の出席である。ここ3年間は連続して出席していることもあり、顔見知りの外国人弁護士も増えてきた。1年に1回しか会わないにしても、会えば親しく話しができるというのは楽しいものである。

2010年のシンガポール大会でリークワンユー元シンガポール首相やアル・ゴア元アメリカ合衆国副大統領の講演などが企画されたが、今回のデリー大会ではそのような目玉企画というようなものはなかった。それでも、各国の訴訟や強制執行システムの紹介、国際取引における有効な契約条項など有意義な講演やパネルディスカッションが数多く行われた。また、東日本大震災における福島原子力発電所の事故をうけて原子力についての法的側面(損害賠償請求や保険など)のディスカッションも行なわれた。
私は進行中の事件の書面の作成などの仕事を持ってデリーに行ったので一日中講演等に出席するというわけにはいかなかったが、それでも興味深い講演をいくつか聴くことができた。

私はインドを訪れるのは初めてだったので、街や人々の様子により興味があった。
空港に到着してホテルまでタクシーに乗ったが、空港のカウンターでホテルの名前を告げると言われた料金を予め支払い、指定されたタクシーに乗るというシステムである。市内まで300ルピー(約500円)である。タクシーに乗りこんでホテルに向かう途中、突然、道端に立っている人の前で停車して、私の承諾も得ずに勝手に乗りこませて、ホテルへの途中の適当なところでおろした。話には聞いていたが、本当に目の前で起こると驚いてしまう。
また、空いた時間にラール・キラー(ムガール帝国時代の要塞)という有名な観光地に行ったところ、インド人の入場料は5ルピーなのに対して、外国人は200ルピーとなっていた。外国旅行は何度かしたが、遺跡等の外国人の入場料が現地人の40倍もするというような国は他に知らない。
道端に立って信号待ちをしている自動車に物乞いをする子供がいたり、観光地の傍にスラムように人々が密集して暮らしている地域があったりした。一方でホテルの料金は日米欧の一流ホテルとほぼ同じである。最終日にホテルで食事をしたが日本の一流ホテルの食事代と全く変わらなかった(なお、このように観光客にとってホテル代のお得感がないことは、インドへの観光誘致にとって不利であるとの問題意識は持たれているようである)。そして、このようなホテルに泊まり、また、食事をするのが日常的である層のインドの人々も存在するのである。

日本で新聞を読んでいる限りは、IT産業の集積地となろうとしており、消費地としても中国について注目されている。しかし、街をいく人々の様子からすれば本当にそうなのか疑問に思わざるを得なかった。あまりにひどい格差が、そのような事実の存在を無意味なものに感じさせるのである。

私にとってIPBAへの参加は、外国人の弁護士の知り合いを増やすだけではなく、その国の生の事実に触れて、自分だけの感覚、考えを創ってくれる得難い機会となっている。
次回の開催国は韓国であり、韓国もまた初めて訪れる国である。友人であり、ライバルであり、日中韓台という同質の文化を共有する国々の中で飛びぬけて陽気な韓国への訪問を非常に楽しみにしている。

弁護士 池田 佳史