定期借家権(定期建物賃貸借)について
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平成12年3月1日、「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」が施行され、このなかで「定期建物賃貸借」(いわゆる定期借家権)が導入されました。

【従来の法律とその問題点】
従来の法律では、貸借期間の定めがあっても、「正当事由」がないと借家人やテナントに立ち退いてもらえず、貸主は「貸したが最後、返してもらえない」というリスクがありました。
つまり、期間満了の際、貸主が更新を拒絶するにも、また、期間の定めがないときに解約の申入れをするにも、法的に「正当事由」が認められない限り、契約は終了しないことになっていたのです。かつ、これに反する特約をしても無効とされていました。
しかも、この「正当事由」は厳格に解釈され、よほどの事情がないかぎり「正当事由あり」とは認定されないのが多くの裁判例でした。
従来の法律は借主側の権利を極めて厚く保護するものになっていたのです。
このような従来の契約を「正当事由借家契約」と呼ぶこともあります。
しかし、貸主にとっては、このようなリスクがあると、所有している住宅や店舗を貸したくても貸すことを躊躇せざるをえません。
その結果、社会全体として良質な貸家(借家)の供給が少ない、という弊害もうまれていました。
また、建物賃貸による運用収益を予測することができないため、不動産の流通化・証券化の阻害となっていました。
さらに、強引な建物明け渡しを迫る地上げ屋の横行を招いたのも事実です。

【定期借家制度の導入】
そこで、正当事由がなくても、期間の満了によって確定的に借家契約が終了する「定期借家制度」を導入することにしたのが新法です。
新法施行後も「正当事由借家契約」を結ぶことは可能ですが、多くの家主は「定期借家契約」を選ぶことになると思われます。
しかし、新しい制度に借主側の理解がすぐには進まない可能性もあるので、新法はその点を考慮し、貸主に対し借主に十分な説明をしなければならないとされています。

【定期借家契約を結ぶためには】
契約を交わす前に、貸主から借主に、「この契約には契約の更新はなく、期間満了により賃貸借は終了する」旨を記載した書面(事前説明文書)を交付して説明しなければなりません。これをしておかなければ後の契約は無効となります。
その上で、契約を結ぶ際も、公正証書などの書面を作成することを義務付けました。もちろんその契約書中で、期間を定め、かつ契約の更新が無いことを記載しておかなければなりません。
さらに、期間満了の1年前から6ヶ月までの間に、借主に対し、その契約が期間の満了により終了する旨を通知しなければなりません。

【施行前の借家契約はどうなるか】
新法施行前の借家契約は、正当事由借家契約のままです。
新法による定期借家契約に切り替えることは、業務用の建物では認められますが、居住用の建物では(当分の間)認められません。

【新制度による変化】
建物所有者は自ら居住するか、賃貸するか、売却するか、いろんな可能性を選択できるようになります。
個人が自分の家を賃貸に出すケースが増えるという見方があります。例えば、転勤の際、定期借家契約で貸せば安心で、空き家にしなくてすむ。老夫婦2人では広すぎる戸建てを定期借家契約で貸し、自分たちは便利な都心マンションを借りて住む。逆に都心の自宅を貸し、別荘を借りて住むなど、様々な住まい方が生まれるかもしれません。
また、当面は短期の定期借家契約で人に貸し、不動産事情が好転したら売却するということも可能になります。
こうして、従来より家を貸す人が増えれば、貸し手の競争が激化し、住宅の質の向上や家賃の低下という利点が生まれる、というのが新法のねらいです。
東京圏で、定期借家制度が導入されなかった場合に比べて、貸家は41.6%増え、家賃は8.7%下落するという試算もあります。
さらに、賃貸住宅市場、建物賃貸ビジネスが活性化するという予測もあります。
定期借家契約では契約どおりに運用できるので、収入を計算することができ、計算ができれば小口投資商品化、不動産の証券化が開けてきます。
他方、やはり持ち家志向が根強く、賃貸市場は新法のもとでもそれほど活性化しないとの見方もあります。