優越的地位の濫用に関するガイドライン

<ポイント>
◆優越的地位の濫用として課徴金の対象となる行為に関するガイドライン公表
◆購入・利用や協賛金等の強制など具体的事例について列挙

独占禁止法が禁止する「優越的地位の濫用」に関して公正取引委員会は昨年(平成22年)11月30日、ガイドラインを公表しました。
優越的地位の濫用はこれまでも独禁法上の「不公正な取引方法」の一つとして禁止されていましたが、平成21年改正(平成22年1月1日施行)によって新たに課徴金が課される対象とされることになりました。
これに伴い、それまでその内容が公取委の一般指定によって定められていたものが、課徴金の対象となる優越的地位の濫用については独禁法2条9項五号に定められることになりました。
公取委がこれらの規定に該当する優越的地位の濫用を認定した場合には、違反事業者に対して、優越的地位の濫用にあたる行為をした日から止めた日までの間の(最長で3年間の)その違反行為によって得た売上額の1%を課徴金として国庫に納付することを命ずることとなりました。これまでは公取委によっては排除措置命令が出されるに留まっていたところ、より厳格なペナルティが課されることになりました。
そこで、優越的地位の濫用の内容がより具体的に明らかにされる必要が生じたことから、今回のガイドラインの策定・公表に至りました。ここではそのガイドラインの内容を概説します。

優越的地位の濫用とは、「自己の取引上の地位が相手に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること」と法定されています。
「次のいずれかに該当する行為」の内容は後述するとして、どうして優越的地位の濫用が規制されるかというと、その濫用行為は、まずは取引先の自由で自主的な判断による取引を阻害(じゃま)するものであるからです。さらにはその取引先にとってのライバルとの競争上不利になり、他方で濫用する事業者は、自社のライバルとの競争上有利になるおそれがあるからです。
これらの行為は「公正な競争」を阻害するおそれがあります。濫用事業者が多数の取引先に不利益を与える場合や、特定の取引先に対するものであってもその程度が強かったり、他に波及するおそれがあれば、公正な競争を阻害するおそれがあると認められやすくなります。

まず「自己の取引上の地位が相手に優越していること」が前提となります。この意味で「優越」していて不当に不利益を課して取引を行えば、通常は「利用して」行われた行為となります。
ここで「優越」しているというためには、シェアにおいて絶対的に優越している必要はなく、その取引先との間で相対的に優越した地位にあれば足りるとされています。
取引先にとって、当該事業者との取引が続かなければ経営上大きなダメージを受けるため、当該事業者が著しく不利益な要請等を行っても、取引先がこれを受け入れざるを得ないような場合です。取引先が売上高などの点で当該事業者にどれだけ依存しているか、当該事業者のシェアはどの程度か、取引先は当該事業者以外との取引を選択することができるかなどを考慮して判断することになります。したがって、大企業と中小企業の取引だけでなく、大企業同士、中小企業同士においても、「取引上の地位が相手方に優越している」という関係がありえます。

なお、「正常な商慣習に照らして不当に」というのは独占禁止法がよって立つところの「公正な競争秩序の維持・促進」の観点からの正常な商慣習に照らして考えるべきで、現に存在する商慣習に合っているからとの理由で直ちに正当化されるものではありません。

そして、ガイドラインは前述の「次のいずれかに該当する行為」について豊富な想定例、過去の具体例を挙げて、違反事例の内容を詳しく説明しています。

まずは「購入・利用強制」です。
「継続して取引する相手方に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること」と法定されています(独禁法2条9項5号イ)。
新たに継続して取引しようとする相手方の場合も含まれます。次の「協賛金等の強制」の場合も同様です。
たとえば、購入しなければ相手方との取引を打ち切る、取引数量を削減するなど、今後の取引に影響を及ぼすと受け取られるような要請をすることによって購入させることなどです。
取引先(相手方)にって不必要であったり、購入・利用を希望しない商品・サービスでも今後の取引継続を考えるならばその要請を受け入れざるを得ないような場合、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることになり、優越的地位の濫用として問題となります。

具体例として、ホテル事業者が閑散期の稼働率向上のために、納入業者毎に枚数を設定して宿泊券の購入を文書で要請し、申し込みがなければ事業部長から重ねて購入を要請した事例がガイドラインに挙げられています。ホテル事業者は北海道内に6ホテルを有し、事業部長は納入取引に及ぼし得る者と認定されています。

次に、協賛金等の強制です。
「継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」と法定されています(独禁法2条9項5号ロ)。
たとえば、取引の相手方の商品又は役務の販売促進に直接寄与しない催事、売り場の改装、広告等のための協賛金等を要請し、これを負担させることなどです。
その協賛金の負担額や算出根拠、使途などが明確ではなくあらかじめ計算できない不利益を与える場合や、その相手方(取引先)が受ける直接的な利益を超える不合理な負担となる場合は、優越的地位の濫用として問題となります。
具体例として、自社グループの店舗の開店に際し、粗利益確保のため、納入業者に対し、事前に根拠や目的について明確に説明せずに、「即引き」として特定の商品について通常より低い価格とすることを要請し、これに応じさせていた事例が挙げられています。
ここでいう経済上の利益の提供とは、金銭だけに留まりません。ガイドラインでは、従業員等の派遣を要請した場合についても例示しています。この場合も、派遣の条件が明確でない場合や、相手方(取引先)が派遣することによって受ける直接的な利益を超える不合理な負担となる場合、優越的地位の濫用として問題となります。派遣費用を自ら負担せず、自社の利益にしかならないような業務を行うよう相手方(取引先)に要請し、派遣させるような場合です。
店舗のオープンに際し、派遣費用を負担することなく、納入業者に対し、その納入業者の商品であるかどうかに関わらず、商品の陳列、補充、接客等を行うよう要請した事例が具体例として挙げられています。

最後に、受領拒否等の強制です(独禁法2条9項5号ハ)。いくつかのパターンがあります。
(1)【受領拒否】取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、
(2)【返品】取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、
(3)【支払遅延】取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、
(4)【減額】若しくはその額を減じ、
(5)その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること、と法定されています。
ガイドラインはそれぞれについて想定例、具体例を挙げています。
いずれについても、正当な理由がないのに、相手方(取引先)に対して、取引の条件を不利益に変更することなどを要請し、これを受けた取引先が、それを拒めば取引に影響があることを懸念して、受け入れざるを得ないような場合が優越的地位の濫用として問題としています。

冒頭に述べたとおり、優越的地位の濫用が公取委に認定された場合、課徴金が課されることになるので、従前と比べても経済的に直接的なダメージが発生します。ガイドラインの想定例などに通じることによって、自社の取引が適法なものかチェックする必要性が高いといえます。
ガイドラインでいう「相手方」(取引先)にとっても、自社が不当に不利益な取り扱いを受けていないかのチェックができるようになり、取引の交渉の材料(武器)になりうるともいえます。