上場企業の資金調達と情報開示

上場企業が新株予約権などを発行して資金調達を行うに際し、情報開示のあり方が問われることがあります。最近の事例を取り上げてみます。

例1:株式会社NOVA(新株予約権の第三者割当) ※同社は既に倒産
同社が発行する大量の新株予約権につき、その引受先(海外に所在地をおく投資ファンド)の実態が必ずしも明らかでないことが問題視されました。
大量の新株予約権発行により既存株主の権利の希薄化が問題になりますが、株主総会の特別決議が必要ないわゆる「有利発行」ではないとして、同社は株主総会を開催せずに新株予約権を発行しました。(新株予約権発行から間もなく、同社が会社更生手続を申立てたため、結局新株予約権は行使されていません。なお、同社の会社更生手続はその後破産手続に移行しています)
なお、同社は、この新株予約権発行とは直接には関係しないものの、時期をほぼ同じくして、情報開示体制に不備があるとして、ジャスダック証券取引所から情報開示体制に関する改善報告書の提出を求められました。改善報告書によれば、同社では代表取締役に過度に権限が集中しすぎたことが適切な情報開示の妨げの一因となったとのことです。新株予約権発行についても、代表取締役が独断で計画を進めていたなどの報道もあり、同社の体制は資金調達に関する不透明さの問題とも無関係ではなかったと思われます。

例2:株式会社オートバックスセブン(転換社債型新株予約権付社債の第三者割当)
新株予約権が行使されることにより筆頭株主の変更を生じる大規模な転換社債型新株予約権付社債(いわゆるCB)の発行です。引受先の実態が明らかでないことのほか、一旦オートバックス社が「引受先による払込が完了」と公表しながら後にこれを訂正したことが問題視されました。このため、同社は、東証・大証により情報開示体制に関する改善報告書の提出を求められました。
こちらの事例でも、「有利発行」ではないとして、株主総会の開催なしに発行が決定されています。株主総会による特別決議を要する有利発行であること等を主張して、一部株主がCB発行差止の仮処分を申立てたものの、裁判所はこれを却下しました。
(なお、結局CB発行は中止されています)

両事例とも、新株予約権が行使されれば大株主の構成に変動を生じ、既存株主の権利の希薄化も問題になりうるような大規模な発行でありながら、引受先(いずれも海外に所在地をおく投資ファンド)の実態が外部からは不明であるなど、内容の不透明さが指摘されています。また、両社とも、上記のとおり、資金調達に直接あるいは間接に関係して証券取引所から情報開示体制に関する改善報告書の提出を求められています。(一旦提出した改善報告書の内容が不充分であるとして、再提出が必要になった点も共通しています)

新株予約権やCBなどの発行会社としては、事業遂行のために何としてでも資金調達を実現したいという思いがあるでしょうが、市場を通じて多くの投資家と接点をもつことになる上場企業である以上、一般投資家(既存株主)の利益を軽視して、資金を投入してくれる引受先の利益ばかりを重視することは許されないはずです。
平成19年12月12日付けで、オートバックスは情報開示体制に関する改善報告書を証券取引所に提出(正確には再提出)しています。同社自身、CB引受先の意見・提案を安易に受け入れすぎていたことを騒動の一因として挙げています。

情報開示の不徹底は、資金を投入してくれる引受先の利益重視に傾いて、既存株主(ひいては市場)の利益を軽視していた、という点が背景にあるように思われます。既存株主を犠牲にして資金調達を図るという点は、ライブドア等に関して話題になったいわゆる「MSCB」などについても指摘されることがあり、企業の姿勢に関する問題点として共通するものがあります。
(※全てのMSCBが既存株主を害するとは限りませんが、上記の点が指摘されることが少なからずあります)

また、オートバックス、NOVAとも、改善報告書中で、一部の取締役に過度に権限が集中し過ぎていたために、他の役員によるチェック機能が働かず、また、事実関係を適切に把握できない体制であった、という趣旨の内容を述べています。
大規模な資金調達や組織再編など機密性の高い案件では、情報を担当役員など一定範囲に集中しなければならない要請もありますが、チェック機能が働かなかったり、正確な事実把握を前提としたタイムリーな情報開示を行えないようではいけません。
予定通りの資金調達が実現しなければ当然事業展開に支障を生じますし、改善報告書の提出を求められる不名誉も企業の評価を損ないます。
改善報告書に記載された改善策が万全の内容であるか否かは別にしても、他社事例を見ておくことは、企業の情報開示担当者や企業法務を取扱う弁護士にとって参考になるように思います。