株式承継によるトラブルを残さないために -遺留分減殺請求への事前の手当

 嶋津 裕介

2020年07月01日

<ポイント>
◆一定の相続人には生前贈与や遺言によって奪えない遺留分が保障される
◆遺留分に相当する財産を遺留分権利者に与えて紛争を回避する必要がある
◆死亡前10年より前に相続人に対してなされた生前贈与はターゲットにならない

オーナー経営者が後継者に自社の株式を承継させるには、遺言であれば、自分自身だけの意思で、生前贈与、売買であれば、後継者との意思の合致(契約)で行うことができます。後者の場合、後継者が株式の贈与を受ける、あるいは株式を買い受けることが必要ですが、いずれにしても、当事者の意思ですることができます。
ただ、生前贈与や遺言によって承継させる場合、すなわちそれ自体が無償で行われる場合は、元経営者(被相続人)の死後、後継者ではない一定の相続人から、遺留分減殺(いりゅうぶんげんさい)請求がなされるリスクがあり得ます。
遺留分は相続人のなかでも、被相続人が配偶者、子(孫以下が「代襲相続」する場合も)、直系尊属(父母またはそれ以上)だけが遺留分を有します。遺産に対して、法定相続分の更なる3分の1(直系尊属のみの場合)あるいは2分の1(それ以外の場合)が遺留分としていわば保障されます。生前贈与や遺言による株式承継によって、自身の遺留分が侵害されていれば、その侵害額に相当する金銭の支払いを、株式の承継を受けた後継者に対して請求することができます。遺留分権利者のための、被相続人の意思によっても奪えない権利と一応いえます。
ただし、遺留分を侵害する遺言、生前贈与がもとより無効というわけではありません。侵害があったと主張する側が、被相続人が死亡して相続が開始したことと、遺留分の侵害を知った時から1年以内に内容証明郵便等で意思表示しないと、遺留分の権利は失われます。遺留分の権利を行使するかどうかは、各遺留分権利者の意思次第ということです。
逆にいえば、オーナー経営者は、自身の死後、後継者と遺留分権利者との間で、遺留分減殺をめぐって紛争とならないように手当てしておかなければなりません。
なお、遺留分減殺請求権が金銭請求権となったのは令和元年7月1日以降に開始した(死亡した)相続についてです。それより前の相続については、遺留分減殺の意思表示によって、遺産を構成する全ての財産が遺留分の限度で共有となりました。そのため株式が共有となってしまうと株主としての権利行使に支障をもたらすことになっていました。金銭請求権とされたことで、そのような支障はなくなりましたが、金銭請求に応じる資力が足りなければ、株式の帰趨にも影響しかねないと思います。
もちろん、株式以外の、不動産、現預金、上場株式ほか金融資産をもって、後継者ではない相続人に対して、遺留分に相当するだけの財産を贈与や遺言で与えることによって、遺留分にまつわる紛争を回避することができます。株式の評価をめぐって争いになることはありうるので、相続税評価だけで足りるのかは要注意です。
また、一つ頭に入れておくべきこととして、遺留分減殺の対象(ターゲット)となりうる生前贈与は、相続開始前の10年間に相続人に対してなされた特別受益に限られるということがあります。特別受益とは婚姻や養子縁組または生計の資本としてなされた贈与ですが、自社の株式を承継させる贈与はこれにあたります。つまり、オーナー経営者が亡くなる10年より前に相続人たる後継者に株式を贈与で承継させていれば、亡くなった後、遺留分減殺請求のターゲットとはならずに、その後継者が遺留分侵害を理由とした金銭の支払いをしなくてもよい、ということになります(なお、その株式を贈与してしまえば、後々の遺留分権利者の権利を害することとなり、その他の財産が以後増えたり減ったりすることも予見していないという例外的な場合には期間制限はありません)。
したがって、遺留分減殺請求のリスクを少なくするという点においては、オーナー経営者は早めに相続人たる後継者に株式を承継させておくべきだということになります。もっとも、将来のことは分かりませんので、絶対確実な方法とは言い難いです(続く)。
以上