株式会社における事業承継の核心は株式の承継

 嶋津 裕介

2019年10月15日

<ポイント>
◆事業承継を完遂するには株式を承継させなければならない
◆株式を後継者等に承継させることにより、オーナーとしての地位を承継させる
◆株式を承継させることで経営権、代表取締役の地位を承継させる

わが国の中小企業の経営者が高齢化するに伴い、事業承継が喫緊の課題となっています。経営状況は悪くないのに後継者がいないから廃業を余儀なくされては、日本経済そのものにも影響を及ぼす可能性があります。
そのため経営者は後継者を親族内外で育成するか、それがうまくなければ、外部の人間、会社を探して引き継がせることが必要となってきます。
このように事業承継として経営者がなすべきことは、もとより法律的な手続きや税負担の軽減にとどまるものではありません。
しかし、株式会社においては、後継者育成がうまくいった場合も、そうでない場合も、法律的にみれば、最終的には会社の株式を承継させることが必要不可欠であり、それによって事業承継が法的に担保されるといえます。

株式とは株主としての会社に対する権利義務をまとめて単位として表したものです。
やや循環論法ではありますが、株主は株式を有することを通じて、その株式数・株式割合に応じて会社の財産を所有していることになります。その財産には、土地、工場、事務所建物といった不動産、機械・什器備品等の動産、システム等の無体財産権、特許などの知的財産権が含まれます。逆に負債をも負担していることになってしまいますが、株主は出資額の範囲でしか責任を負わないという有限責任の原則があり、原則的には責任を負いません(原則的にはというのは、個人保証の問題があるからです。これも事業承継のときに考慮すべき重要論点ですが、ここでは割愛します)。
さらには、これら個別の財産のみならず、従業員との雇用契約、取引先との契約関係、得意先等の顧客や仕入れ先との関係、顧客情報、ノウハウ、ブランド、のれんといった会社の価値全てが、株式を有することで、株主に帰属していることになります。
事業承継に際しては、後継者が従業員や取引先との関係を円滑に承継できるように種々の配慮が必要となりますが、これを法的に完了させるのは、後継者に株式を承継させ、株式を通じた会社に対する所有権を移転させることにあります(モデルとして全株式を現経営者が有しているという前提です)。
以上は株式を通じた会社のオーナーとしての側面から見た説明です。

一方で、株式を有することは経営権の掌握につながります。最も基本的なことは、株主総会において取締役を選任することができる、ということです。取締役選任議案はいわゆる普通決議によって議決できます。つまり、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数)、出席した当該株主の議決権の過半数の賛成により成立します。定足数を定款で外していることがあるとしても、大雑把にいえば過半数の議決権を有すること、一株一議決権の原則からすれば、50%を超える株式を有していれば、自らを取締役として選任できるし、取締役会設置会社であれば、自身を支持する人を取締役として選任できます。そうすることで取締役会で自らが代表取締役として選定されることが実現できます。
定款変更、合併、事業譲渡、解散などの会社の根本にかかわる事項については、いわゆる特別決議が必要です。つまり、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定款によっても、3分の1未満にはできない)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決の3分の2以上の賛成が必要です。裏返しでいえば、3分の2以上の株式を有していれば、これらにかかわる経営判断も株主総会の決議を通して独自に行うことができるということになります。

このように、現経営者の会社に対するオーナーかつ経営者としての地位を後継者等に引き継がせるには、株式を承継させることが必要です。これはM&Aによって会社を引き継がせる場合(いわゆる第三者承継)も同様です。だからこそ株式譲渡や合併などがなされるのです。
以上は当然のことではありますが、基礎を認識しておくことは大事だと思います。