大型マンションの傾きに関する法律問題

 嶋津 裕介

2015年11月01日

<ポイント>
◆品確法により、新築住宅の売主の瑕疵担保責任が定められている
◆瑕疵の補修も担保責任の内容であり、建替えも有り得る
◆建替えは全区分所有者の頭数・議決権とも5分の4以上の賛成が必要

横浜市都筑区の大型マンションで、杭打ち工事についてデータの改ざんや施工の不具合が判明し、建物が傾く事態となっています。
そこで、本件における建築紛争上の法律問題について概観してみます。

まず新築当時からの区分所有者は、販売会社から売買によって区分所有建物を取得しており、販売会社に対する瑕疵担保責任を問うことができます。
分譲マンションを含む新築住宅の売主の瑕疵担保責任は、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)により、契約の解除、瑕疵の修補、損害賠償が規定されています。
同じく品確法によって、その期間は「構造耐力上主要な部分等」の隠れた瑕疵については、完成引渡しから10年間以上と定められています(契約により20年まで伸長することができます)。
ちなみに、新築分譲マンションの場合、ここでいう引渡しは、施工会社(元請)から販売会社への引渡時とされています。

品確法施行令で、この「構造耐力上主要な部分」として「基礎ぐい」が含まれていますので、基礎ぐいに不具合があったとなれば、当然、「構造耐力上主要な部分」の隠れた瑕疵といえるでしょう。
ちなみに、この大型マンションは2007年12月に完成したとのことですので、引渡がそれ以降ですから、現時点で瑕疵担保期間にあるといえます。
もちろん、発覚が今より遅れて10年が経過していたとしても、このような重大で悪質な問題で「期間が経過しているから、責任を負わない」などとは実際上は言えないでしょうが、法的責任があるかないかによって販売会社としての対処の仕方に微妙な影響があるかもしれません。
しかし本件で瑕疵担保責任があることは期間の点でも明確といえます。

そして瑕疵担保責任として、買主たる区分所有者は販売会社に対し、瑕疵の修補(補修)を請求することができます。買主たる区分所有者は、瑕疵の補修に代えて、又はその補修と共に、損害賠償の請求をすることができます。
ここで瑕疵の補修といっても、本件は基礎の不具合ですので、建て替えるより方法がないということになれば、買主たる区分所有者は瑕疵の補修として、販売会社に対し建て替えを請求できるということになると考えます。

買主の権利としては、売買契約の解除も認められていますが、これは当該瑕疵があることによって売買契約の目的を達することができないときとの制限があります。
もし、何らかの方法で、瑕疵の補修ができる限りは、売買契約の目的を達することができないとはいえず、契約解除までは認められないかもしれません。

なお、これらの瑕疵担保責任は、新築分譲マンションの販売会社と当初の買主との間に関するものなので、現在の区分所有者が新築当初の買主から買い受けたというのであれば、法律的には、その責任追及は、売買契約に基づいて旧所有者に対してしていくものということになります。内容も、瑕疵があることで売買契約の目的を達することができない場合の契約解除と、損害賠償請求ということになります。旧所有者に対して瑕疵修補を請求できるということにはなりません。
場合によっては、中古で買った現在の区分所有者は、売買契約を解除してしまう、という手がないではありません。ただ、元の区分所有者から代金を回収するのは困難でしょうから、あまり実際的ではないでしょう。おそらくは販売会社サイド(つまり販売会社、施工会社たる元請け、一次下請け、杭打ちを施工したとされる二次下請け)は、当初からか中古で買ったかは問わずに区分所有者を対象とするでしょうから、その対応を待つということになるかと思います。

ただ、建替えしか補修の方法がないとなったときも、本件の場合、分譲マンションですから、各区分所有者の意思と権利行使だけでは、実際上、建て替えを実現できないということになります。
この点について、区分所有法は、区分所有者全員で構成される管理組合の集会(総会)で、区分所有者の頭数の点で5分の4以上の多数、かつ、専有部分の床面積の割合によって決まる議決権の点でも5分の4以上の多数によって、建替え決議をすることができるとされています。その決議に際しては、再建建物の設計の概要や、建替えにかかる費用の概算額やその分担に関する事項などについて決めなければなりません。
本件では、その建て替え費用は販売会社サイドが負担するとの前提となるでしょう。
その決議が成立したとして、建替えに反対した区分所有者は、賛成者や賛成者全員の合意によって指定された者に対して、区分所有権を売り渡すということになります。

なお、この大型マンションが建築基準法に違反するものであれば、市町村長または都道府県知事が、相当の猶予期限を設けて、建築物の所有者に、是正措置の一環として、建築物の除去や改築を命ずることができることにも建築基準法上なっています。
もし、所有者(管理組合)が応じない場合は、行政による代執行の途も残されています。

区分所有者(ないし居住者)と、販売会社・施工会社(元請、一次下請、二次下請)との間において、以上のような権利関係を踏まえて、建替え、損害賠償(補償)交渉がなされていくことになるでしょう。
もちろん、販売会社、そして、元請、一次下請、二次下請の間では、それぞれの間の契約に基づき補償の負担を巡る協議がなされることになるでしょう。
基本的には、その根本の原因を作った会社、これまでの報道による限りは、杭打ちを施工した二次下請が最も重い責任を負担するということになるかと思われます。ただ、販売会社、元請、下請も、その関与度合い(逆に、あるべき関与が欠けていたという度合い)等によって、いわば対内的にも、責任を負担しないといけないかもしれません。

さらに販売会社、施工会社については、宅建業法、建設業法上の行政上の処分も検討されているようですが、ここではその内容は割愛します。