会社役員の解任に理由は必要か?

 森田 豪

2015年01月15日

<ポイント>
◆解任理由は損害賠償をめぐる問題
◆解任自体は必ずしも理由を必要としないが参考書類の記載に注意
◆定款で役員任期を延長している場合には賠償範囲も論点となる

巨人軍元球団代表・清武氏と読売グループとの訴訟について昨年12月に地裁判決があり、読売側が清武氏を取締役から解任したことには「正当な理由がある」とされました。清武氏が控訴しているようです。
この訴訟では「解任の正当理由」が論点になっていますがた、じつはこれは解任が有効かどうかという議論ではありません。むしろ清武氏が有効に解任されたことを前提にして、同氏から読売側に損害賠償請求できるかどうかという議論です。

会社法は役員の選任のほか解任についても株主総会決議によるものとしています。
この総会決議では「解任するかどうか」を株主に諮ればよく、解任理由については必ずしも審議する必要がありません。(ただし参考書類の記載事項の問題はあります)
そのうえで、正当理由なく解任したという場合、会社は役員に対して損害賠償しなければならないということになっています。
正当理由については会社側に立証責任があります。
極端にいえば、解任された役員側は「自分は役員だったが解任された。よって損害賠償を求める。」という訴状を裁判所に提出すればよく、この賠償請求を受けた会社側が答弁書(反論書面)で解任の正当理由を説明していくということになります。

このように正当理由の有無は解任の効力要件ではなく、解任の有効性を前提にしたうえでの損害賠償の問題と位置づけられます。
ただし上場会社のように株主総会招集にあたって議案に関する参考書類を作成する場合は別途の考慮が必要になります。参考書類のルールでは、役員解任議案を総会に上程する場合には解任理由を記載することとされています。このルールに違反して解任理由の記載が抜けていた場合、裁判所により株主総会決議が取り消されるおそれがあります。

どのような場合に解任の正当理由ありといえるかについては、主観的・感情的な対立関係では足りず、客観的な事実として職務遂行に支障があることを会社側が立証しなければならないとされています。
清武氏と読売との訴訟についてみると、東京地裁は、清武氏が取締役会での検討を経ずに記者会見を行って会社の内部情報を公表したことは取締役としての職務に違反すると認定しています。つまり、職務違反にあたる客観的な事実を認定したうえで解任に正当理由ありとしています。
報道で強調されているような渡邊会長と清武氏との心情的な対立だけでは解任の正当理由ありとはいえません。

会社側が解任の正当理由を立証できなかった場合には損害賠償を命じられることになります。
賠償の範囲としては任期中の役員報酬が典型的です。
任期2年として取締役に就任したが1年で解任されたというケースでいえば、残り1年分の報酬額が賠償範囲になります。
このほか賞与や退職慰労金についても、社内での支給実績などからして「解任されなければ支給されていた」という蓋然性があれば賠償範囲に含まれます。これらはケースごとの個別判断であり、裁判例としても事実関係に応じて肯定例、否定例の双方がみられます。

賞与や退職慰労金の扱いが個別事情ごとに異なってくるのに対して、取締役2年、監査役4年というような標準的な任期であれば、任期中の報酬額が賠償範囲に含まれることに議論はさほどみられません。
問題は定款で任期を10年に延長しているようなケースです。
この場合にも任期中の報酬全額が当然に賠償範囲とされるのかどうかには議論の余地があります。しかし、解任されなければ10年間の任期を全うしたであろうという蓋然性が示されれば、賞与や退職慰労金との対比からしても、任期中の報酬全額が賠償範囲になると考えるのが論理として自然です。
任期を10年に延長したケースでの賠償問題について判断を示した裁判例は今のところ公表されていませんが、今後裁判所の判断が問われるケースも出てくるでしょう。