事業買収の注意点 簿外債務をシャットアウトするには?

 森田 豪

2010年11月01日

<ポイント>
◆ 事業買収の際に簿外債務を引きつがないように注意
◆ 事業譲渡によれば簿外債務を引きつぐ心配はすくない
◆ 会社分割では分割契約の記載に工夫が必要

ある事業部門を他社から買収する、あるいは他社に売却するといったご相談をよく受けます。売り手企業にとっては不採算だったり全体的な経営方針と一致しない事業であっても、買い手企業にとってはそれなりのメリットが見込める事業だという場合に、事業部門の売却・買収ということになります。

事業を買収する際に買い手企業として注意しなければならないのが、売り手側の簿外債務を引きつがないようにすることです。
買収成立の前のいわゆるデューディリジェンスで簿外債務の有無もできるかぎりチェックするわけですが、時間・費用の制約のなかで限界もあります。
そうすると、買い手企業としては、スキーム自体として簿外債務をシャットアウトできるようにしていく必要があります。

合併、株式買取りといった会社まるごとの買収を別にすれば、事業買収のためには事業譲渡、会社分割といったスキームがあります。
事業譲渡は実は売買契約の集合体のようなもので、売り手企業から買い手企業に対して個々の資産・負債・契約関係ごとに個別に移転手続きを行うことになります。
個別に同意した範囲でしか負債、契約関係が買い手に移らないので、買い手企業としては想定外に簿外債務を背負いこむ心配はすくないです。
個別に移転手続きするのが面倒なケースもある半面、事業譲渡にはこうしたメリットがあります。

では、簿外債務のシャットアウトという点では会社分割はどうなるでしょうか。
会社分割では、分割契約・分割計画に記載された範囲で資産・負債、契約関係が当然に買い手企業に移るのが特徴です。個別の手続きなしに買い手企業に移転します。
分割契約で「○○事業に関する資産・負債・契約関係の一切が買い手に承継される」と規定した場合、簿外債務があれば買い手企業はそれも背負いこむことになると考えられます。
このような分割契約は実際にもよく見かけますが、売り手企業をいまいち信頼できないというケースでは不安を感じます。

対策として、会社分割ではなく事業譲渡による事業買収とすることが考えられます。
しかし、事業譲渡では権利義務について個別に移転手続きが必要になります。
このため、たとえば消費者との無数の契約関係を買い手企業に移転させるためには事業譲渡では不便なことがあります。また、許認可事業の場合、事業譲渡では買い手企業が独自に許認可を取りなおさなくてはいけないという問題もあります。

そこで、会社分割による事業買収としつつ簿外債務をシャットアウトする方法を考えます。
会社法上、会社分割は「事業に関する権利義務を買い手に移す手続き」とされていることがポイントになります。
「事業まるごと」の移転ではなく、事業を構成する各パーツである権利義務のレベルで切り分けをしてやればいいのです。旧商法から会社法になって変更された点です。
単純なケースであれば、買い手が引きつぐ権利義務を特定して分割契約に列挙することで簿外債務をシャットアウトできます。「書かれていないものは引きつがない」という発想です。
また、権利義務を特定して記載することが難しい場合には、事業に関する資産・負債・契約関係を包括的に引きつぐとしつつ、「ただし、売り手から開示された財務諸表に計上されていない権利義務は引きつがない」と但書きで明記する方策が考えられます。

以上、簿外債務のシャットアウトという観点で事業譲渡と会社分割について考えてみました。

ついでといってはなんですが、会社分割について気になっていることがもう一点。
事業部門が買い手に移った後に売り手企業は同種事業を行ってはならないという競業避止義務を規定し忘れているのではないか、という分割契約がたまに見られます。
グループ内での分社化であればともかく、外部企業から事業部門を買収する場合には忘れてはいけない条項です。

いずれにしても、目的達成のために複数のスキームを比較検討していく作業は結構楽しいものです。