中小企業の後継者が贈与を受けた株式を遺留分から除外できる制度

 嶋津 裕介

2017年11月01日

<ポイント>
◆後継者と推定相続人の合意により遺留分算定の基礎財産から除外できる
◆株式の価額を合意時の価額に固定することもできる
◆経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要

中小企業の事業承継に役立つ制度を一つご紹介します。
「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」には遺留分の特例があります。

中小企業(会社)の代表者甲に子乙、丙がいるとします(配偶者はその時点でいないという前提)。
乙が会社を継ぐ計画のもとに甲は乙に会社の全株式8000万円を生前贈与しました。
8000万円は贈与時の評価額です。
そののち甲が死亡し、そのことを乙、丙が共に死亡と同時に知ったとします。
死亡時、すなわち相続開始時の甲の財産は不動産(例えば甲と乙が同居していた自宅)が3000万円、預金が1000万円ありました。
遺言では、先の生前贈与とは別に、乙に不動産を相続させ、丙に預金を相続させると書いてありました。
このとき丙には遺留分が発生します。
被相続人甲は生前も、あるいは遺言によっても自分の財産を自由に処分する権限がありますから、会社の後継者たる乙に株式を生前贈与あるいは遺言で与えることができます。
しかし、子には、最低限の保障として遺留分があります。
法定相続分の半分です。この例でいえば、丙には4分の1の遺留分があります。

そして遺留分算定の基礎となる財産は、被相続人が相続開始時において有していた財産に、相続開始前1年以内の贈与と「特別受益」を合計した額から、債務(負債)の額を控除した額となります。
「相続開始前1年以内の贈与」という条件からいえば、生前贈与は早めにしておけばよい、と思ってしまいますが、会社の株式は通常、「生計の資本」として贈与されたものと考えられます。その場合、「特別受益」として「相続開始前1年以内」との時期の制限なく、遺留分算定の基礎となります。
ちなみに、相続人とはならない者、例えば親族ではない後継者に贈与するという場合は、特別受益とは無関係ですが、それでも、「遺留分権利者に損害を加えることを知って」した贈与については時期の制限はありません。
ここの例で、遺留分算定の基礎となる財産は、3000万円+1000万円+8000万円=1億2000万円となります。
このとき、丙の遺留分は3000万円となります。預金1000万円を相続しているので、2000万円分遺留分が侵害されていることになります。
そこで、丙は乙に対して、2000万円の遺留分減殺(げんさい)請求することができます。
乙は現金を贈与されたり、相続されたわけではありません。自分自身で現金を調達しなければなりません。できなければ、自宅不動産を売却しないといけないかもしれません。
不動産が例えば会社の工場の敷地だったりする場合も困ります。
また、遺留分減殺請求を受けて協議が整わなければ、家庭裁判所での調停で解決することになり、場合によっては訴訟まで争われることにもなりかねません。

そこで、中小企業経営承継円滑化法は、株式の贈与を受けた後継者と推定相続人(後継者も推定相続人ならば、「他の推定相続人」)が、先代の代表者(旧代表者)の生前に、書面の合意をもって、その株式の全部または一部について、遺留分を算定するための財産の価額に参入しないことを定めることができるようにしました(除外合意)。
これによれば、乙は甲の相続が起こったときに、丙から遺留分減殺請求を受ける心配をしなくてすみます。
もう一つ、この法律が定めているのは、株式の評価を、その合意時点で固定化できるようにしたことです(固定合意)
民法の原則によれば、相続開始時点の価額によることになりますが、その特例を定めているということです。
例えば、先の例で、乙が会社の株式の贈与を受け、その経営努力により全株式が相続開始時には1億6000万円になっていたという場合でも、合意時点の8000万円の限度で遺留分算定の基礎にするということになります。
合意時点での価額で遺留分算定の基礎とする合意をして、その後の価額上昇分は後継者乙に帰属することを保障するものです。
その価額については、弁護士、公認会計士、税理士等が相当な価額として証明することが必要です。

平成28年4月1日改正法により、それまで後継者は推定相続人に限られていたところ、そのような制限がなくなりました。

これらの合意をしたのち、乙が株式を第三者に処分したり、あるいは代表者を退いたりしては合意の意味がなさなくなってしまいます。
このような場合に、(他の)推定相続人がとるべき措置を合意で定めておかなければならないとしています。
例えば、丙がその合意を解除することができる、あるいは乙に一定額の金銭請求をすることができるというようなことです。
後継者の自由度を高めるため、「丙は何ら異議を述べない」といった定めもできるとされています。

また、これらの合意に際して、後継者が株式とは別の旧代表者の財産についても贈与を受けたときに、遺留分算定の基礎から除外する合意を(他の)推定相続人とすることもできます。
他方で、後継者に有利になることばかりでは、合意が成立するのも難しい場合があります。
そこで、法律は、後継者と(他の)推定相続人の衡平を図るための措置を定めることができ、その場合も書面によってしなければなりません。
乙が丙に一定額を支払う、生活費として毎月一定額の金銭を負担する、あるいは、旧代表者の医療費を負担する等が考えられます(中小企業庁・中小企業経営承継円滑化法マニュアルより)。
また、(他の)推定相続人が、旧代表者から受けた贈与を遺留分算定の基礎から除外するとの合意をすることもできます。

上記のような合意については、経済産業大臣に申請して確認を受け、かつ、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
家庭裁判所においてはその合意が当事者の全員の真意に出たものであるとの心証を得なければ許可できない、としています。
「真意」によるかどうかを判断するに際しては、(他の)推定相続人が何等かの代償を得ているかどうかもポイントとなってくるでしょう。
当然、後継者ではない推定相続人がこの合意に応じるには、この代償の有無がポイントとなることが多いと思われます。
そうすると、後継者と、(他の)推定相続人が、家業の存続のためよく話合い、理解を深めることが重要で、かつ(他の)推定相続人としては遺留分の保障までは求めないが、それなりの代償を得て合意するというような場面で使われると考えられます。

なお、遺留分は当然に与えられるものではなく、贈与や相続を受けた者に対して「遺留分減殺請求」することによって初めて具体化します。
しかも、その期間は減殺すべき贈与や相続などがあったことを知り、かつ相続開始の事実を知った時から1年以内と限られています。
したがって、丙が株式の生前贈与を知っていても、遺留分減殺請求をしなければ、乙が自ら丙に遺留分を渡す必要はありません。