2008年11月01日

このところ柔らかめの話題が多かったので、今回は仕事の話を。

私は、労働問題、なかでも企業の労務問題を主な取扱分野としています。
最初はそれほど多くの案件を扱っていたわけではなく、一般民事や家事事件が多かったのですが、当事務所は顧問先数が100を超え、その労働問題のほとんどが私のところに集約されるため、かなりのボリュームの労働問題に携わっていることになります。
一日の仕事のほとんどが労働問題関連であることもめずらしくありません。
そのなかで気づいたこと、感じたことをいくつか。

解雇は伝家の宝刀・めったなことでは抜くべからず
従業員を解雇することの難しさについては、いまだに理解が十分なされていないように感じます。
特にこれまで労働紛争が起こったことのない企業では、従業員が訴訟を起こしてきたりすることを想定していないのでは、と感じることもあります。
特に紛争になりやすいのは解雇の問題です。
従業員は、雇用が続いている間は、おとなしいことが多いものです。しかし、いったん解雇ということになり、会社との関係が切れてしまうと人格が豹変したかのような態度にでる人も少なくありません。
解雇の紛争は、勝ったところで会社側にもたらされる利益はほとんどありません。その一方で、勝とうが負けようが弁護士費用は発生し、人事担当者や直属の上司は大変な労力をかけることになります。負けでもした場合には、係争中の給与まで支払わなければなりません。また、紛争が発生したことによって、社会の耳目を集めることにもなりかねません。
このようなことを考えると、解雇は伝家の宝刀であり、めったなことでは抜いてはいけないと思うのです。
協調性に欠けるなど、やめてもらいたい人がいる場合には、就業規則にもとづいて戒告や減給、降格などの処分をきちんと行い、そのうえでどうしても改善されない場合にのみ、解雇というカードを切るべきだと考えます。
ただし、経営者の判断で、少々法律的には微妙でも最終的には解雇という手段をとらざるを得ない場合もあるでしょう。たとえば、仕事上のミスが多くて顧客に迷惑をかける、その改善はおそらく困難であろう、というケースでは、顧客に迷惑をかけさせて注意を繰り返すなどという悠長なことは言っていられない場合もあるでしょう。その場合でも、退職金の積み増しなども検討したうえで、まずは十分に話し合うべきです。あくまで解雇は最終手段だということを忘れないでいただきたいのです。
唯一の例外は、金銭の横領やセクハラなどの悪質な事案の場合です。この場合は、ケースにもよりますが、解雇が正当とされる場合は多く、しかも、企業としても放置することが社会的にも許されない場合が多いのです。ただし、勝手に判断するのではなく、伝家の宝刀を抜く前に、専門家のアドバイスを受けることをお忘れなく。

労働問題は最後は魂の問題・相手の立場にたって考えよ
これは、労働者側の立場で長年労働組合運動をしていた方のお言葉です。
労務問題を主に取扱っていこうと思ったときに、友人の紹介でお話を伺う機会を作ってもらい、いろいろためになるアドバイスをいただきました。
その方は「一寸の虫にも五分の魂です。いくらおとなしい労働者でも、あまりに無茶なやり方で踏みつけにされると、法律なんか知るかい、という魂の問題になります。労務問題を扱うのならば、そのことを忘れないほうがいいですな。」とアドバイスをしてくださいました。
労働者を「一寸の虫」に例えるのは、その方が労働者サイドの方ゆえのレトリックでしょうが、「魂の問題」という言葉の意味は理解したつもりです。つまり、労働問題はその舵取りを誤ると、相手の個人としての尊厳を傷つける場合があり、その場合は、相手は自分の全てを投げ出してでも争ってくることがあるということだと思います。
相手の立場に立って考えるというのは、交渉の鉄則ですが、労働問題に関わるにあたっては、この鉄則をどれほど重視しても重視しすぎるということはないと思います。
私は、企業側の代理人ですが、企業の利益ということを最大限に考えても、そこで働く方をあまりにないがしろにすることは、決して得策ではないと思うことが多いです。
まだまだ未熟ではありますが、法にしたがって、しかもできるだけ従業員の痛みの少ない解決方法を考えつつ、最終的にはご相談いただいた企業側の利益を実現することができれば、と考えています。