判断能力のない子の行動に対する親の責任

<ポイント>
◆監督したこと、又は、したとしても被害が生じたことを立証しない限り親が責任を負う
◆被害者の素因を基礎に被害結果との因果関係が認められることがある

裁判所の判決をみると、日常生活を普通に送っているつもりでも損害賠償責任を負うおそれがあることを意識させられることがあります。今回は、そのような判決の一つをご紹介したいと思います。
小学校の校庭で6年生の子供が、サッカーのフリーキックを練習するためにゴールに向かってボールを蹴っていたところ、ボールが道路に飛び出し、たまたまオートバイに乗ってやってきた高齢者(85歳)がそのボールを避けようとして転倒し(以下「本件事故」)、その際の負傷が原因で亡くなったという事案です。
遺族が子供と両親を相手に損害賠償請求訴訟を起こしたところ、両親に対する請求が認められました(平成23年6月27日大阪地裁判決)。新聞にも載っており、ご存知の方も多いと思います。子を持つ親としては、他人事とは思えなかったのではないでしょうか。

両親に対する請求が認められるにあたり、主に2つの争点がありました。
1つめの争点は、子供がボールを蹴って校庭の外に飛び出させた点に過失、または違法性があるのかということです。
両親は、校庭でボールを用いて遊ぶことは当然許されるべきことであって違法ではない、また、校庭でボール遊びをするにあたって子を事細かに監督する義務はないから監督義務違反はないとも主張しました。
しかし裁判所は、ゴールが道路に近い場所に道路と並行して設置されていて、子供らが道路に向かってボールを蹴っていたことに着目し、ボールを蹴れば道路に飛び出して車両を転倒させる危険があることは予見できたはずであるから、子供に過失があると判断しました。
そのうえで裁判所は、子供はまだ11歳であり、自分の行動の結果どのような責任が生じるのか分からないため責任を負わず、監督義務を怠った両親が責任を負うと判断しました。両親が監督義務を怠ったと判断した根拠は明確にされていませんでしたが、法律では、判断能力のない子の監督をしっかりした、又はしっかりしたとしても被害が生じたことのいずれかを立証しない限り、監督者が責任を負うとされているところ、裁判所は、これらの立証が果たされてないと考えたものと思います。

2つめの争点は、本件事故と死亡との間に因果関係があるのかということです。高齢者の負傷内容は、左足すねの骨折などであり、通常、命にかかわるとまではいえないからです。
しかし裁判所は、事故前は自宅で野菜やミカンを作っていたのに入院するとこのようなことができなくなり、刺激が少なくなった→従前からの脳萎縮等が進行した→神経が麻痺して物を飲み込みにくくなった→食べ物・唾液が誤って気管に入ってしまい、肺炎を起こして亡くなった、という経緯を認定して、本件事故と死亡との間に因果関係があると判断しました。

以上から、子供の両親は、遺族に対して損害賠償責任を負うと判断されましたが、高齢者が物を飲み込みにくくなったことについては、従前からの脳萎縮等が大きく寄与しているとして、実際に支払うべき賠償額は、被害者側の損害の4割でよいと判断しています。
とはいえ、合計1500万円ほどの賠償義務を負うことになったため、両親は控訴しましたが、控訴審でも、校庭外にボールを飛び出させた点について子供の過失を認めました(平成24年6月7日大阪高裁判決)。その際、控訴審は、校庭のネットフェンスや門扉の高さが120センチメートルほどしかなかったことにも着目し、ボールを蹴ればネットフェンスまたは門扉を超えて道路に飛び出すことは十分予想できたはずと指摘しました。
分からなくはないですが、ゴールが道路の近くに道路と並行して設置された経緯、120センチメートルしかないネットフェンスの近くに設置された経緯が気になるところです。
また、両親は、一般家庭と同じく子供のしつけをしてきたのだから、監督義務違反はないとも主張しましたが、これに対しても控訴審は、周りに危険を及ぼさないよう注意して遊ばなければならないことを理解させていなかったと指摘し、監督義務違反があったと判断しています。

賠償額は1200万円ほどまで下がりましたが、両親は、法廷でのさらなる審理を求めて、最高裁判所に申立てをしたようです。最高裁の対応が注目されるところです。