TOBとインサイダー取引
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村上ファンドの村上氏のニッポン放送株をめぐる取引がインサイダー取引であるとして問題になっています。
インサイダー取引の典型的な例は、会社が画期的な新製品の発売を計画しているが、その情報が公になっていない段階で、それを知っている会社役員が会社の株式を安値のうちに購入しておき、高値になったときに売却するというものです。もちろん、会社役員からその情報を密かに入手した者が同様のことを行ってもインサイダー取引となります。

インサイダー規制とは、会社関係者等が重要事項を知ったときは、その事実が公表されるまでは、その会社の株取引をしてはならないという制度のことです。
しかし、村上氏の場合は、ニッポン放送の役員から情報を入手したのではありません。報道されているように村上氏がライブドア側に対して積極的にニッポン放送株の取得を勧めたとしても、ニッポン放送側から不正に情報を入手したのではありません。村上氏の行為は、会社と無関係の者がその会社の株を買おうとしているということに便乗して、株を取得しただけとも言えます。これが刑事罰を課せられるほど悪いことなのでしょうか。

証券取引法では2種類の株取引についてインサイダー規制をしています。
一つは、会社関係者の取引であり、もう一つは公開買付け(TOB)等関係者の取引です。
TOBは、証券取引所外での上場株式の取得のための原則的手段です。このように取得手段が規制されるのは、隠密裏に株式等を大規模に取得しようとする場合には不公正、不公平になる、すなわち、多人数から取得しようとする場合には一部の者だけに有利になるし、大量に取得しようとする場合には対象会社の経営権が変化して一般の株主に重大な影響を与えるからです。
TOBは、通常、対象会社の経営権の取得を目指して行われるわけですから、これが開始されるなどという情報は株価にとって非常に重要なものであり、冒頭に述べたインサイダー規制の対象となっている会社関係者による取引に準じるものと考えられています。
そこで、TOBを公正、公平に行うためには、TOBを行うなどする者、その者からそれを知らされた者は、TOBを行うなどの事実が公表されるまでは、対象となる会社の株取引をしてはならないことになっています。

ところで、ライブドアは、ニッポン放送に対してTOBを開始したわけではありません。時間外取引を利用して大量の株式を取得したのです。そもそも、株式の譲渡は市場の内外を問わず自由にできるはずですが、一定割合以上の株式を取得しようとする場合には、市場から取得するか、上記のとおりTOBによらなければならないというルールがあります。そこで、ライブドアによるニッポン放送株取得は、このルールに違反しているのではないかという問題が裁判で争われました。その際に裁判所が下した判断は、市場での取引きに準じるものであり証券取引法に違反しないというものでした。

ライブドアのニッポン放送株取得が市場内での取引に準じるということであれば、村上氏はTOB関係者にもあたらないということになりますが、今回の村上氏のニッポン放送株取得は、ライブドアのニッポン放送株取得がTOBに準じるものとして、TOBにおけるインサイダー取引に該当するものとし、問題視されています。これは、証券取引法で禁止されるインサイダー取引の対象となる者として、TOBだけでなくTOBに準じるものとして政令(証券取引法施行令)で定める行為が行われる情報を入手した者も含まれているからです。この政令では総株式の5%以上を集めようとする買い集め行為を規定しており、村上氏が堀江氏側からニッポン放送の株を5%以上買い集めるとの情報を得た後に、ニッポン放送の株を取得したことはインサイダー取引に該当します。

報道によると、村上氏はインサイダー取引を認めているようですが、これによる罰則は3年以下の懲役、300万円以下の罰金です。また、インサイダー取引で得た財産は没収されることになっていますが、財産を得たのはファンドですので、どのようにファンドに負担させるかについては裁判所の判断が待たれるところです。