遺言の方法と留意点
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<1.遺言書の種類>
【自筆証書遺言】
自分で書いて、自分で保管しておく遺言。
手軽に作成できる反面、後日、筆跡が本人のものか、内容が本人の意思どおりであったか、などについて争いが生じることがある。
正しく書かないと遺言が無効になることがある。例えば、日付の書き忘れ、固有名詞の間違い、訂正印の押し忘れ、1通で2人が遺言するなど。
紛失したり、誰かに隠されたり、破棄される危険がある。
本人死亡後、家庭裁判所に「検認」の申立てをしなければならない。

【公正証書遺言】
公証人に作ってもらい、公証役場で原本が、半永久的に保管される遺言。(遺言者には正本、謄本が渡される。)
確実で、後日検認の必要もない。
但し、公証役場へ、本人と証人2名が出頭する必要があり、また費用(公証人、弁護士の手数料)がかかる。

【秘密証書遺言】
自分で作成し、封印したうえ、公証役場で確認してもらい、自分で保管しておく遺言。
誰にも遺言の内容を知られることがない。公証人も中身は見ない。
公証役場の費用は公正証書の場合より低額。
本人死亡後、家庭裁判所に検認の申立てをしなければならない。

※なお、上記以外に、危篤状態において作成する【危急時遺言(臨終遺言)】など、特別方式による遺言がある。

<2.自筆証書遺言の作成方法>

遺言したい内容の全文と日付を自分の筆跡で書き、最後に署名捺印する。
証人や立会人は不要。
筆記用具や用紙は何でもよい。普通は、ボールペン、万年筆、毛筆で、便箋、原稿用紙などに書く。
訂正のないように書く。書きまちがった場合は(決められた訂正の方法があるが)そのページをはじめから書き直す方がよい。
捺印は必ずしも実印でなくてもよいが、実印の方が好ましい。
数枚にわたるときは、ホッチキス又は糊づけで綴じて、各ページの間に契印(割印)をする。
必ずしも封筒にいれる必要はないが、普通は封筒に入れて、表に「遺言書」と、裏に名前を書いておく。
他人に見られたくなければノリで封をしておく。
1通だけ作成すればよいが、万が一の紛失、焼失などの場合にそなえて、2通同じものを作成し、別々に保管した方がよい。
保管の仕方は、自分でどこかへしまっておいてもよいが、1通は信用できる人や弁護士に預けておいた方がよい。
書いたあと、考えや事情が変わったときは、いつでも内容を書きかえることができる。あとの方が有効な遺言となる。後の遺言は自筆証書遺言以外の方式でもよい。

<3.公正証書遺言の作成方法>

遺言したい内容や財産目録をメモ書きし、それを持って公証役場に出頭する。
弁護士に依頼するときは、メモ書きを弁護士に見せ、弁護士があらかじめ遺言書にふさわしい原稿を作成してそれを事前に公証人に渡しておく。
決められた日時に、証人2人を伴って公証役場に出頭する。
弁護士に依頼するときは、普通弁護士が証人の1人になる。
本人と証人の印鑑証明書、実印を持参する。(印鑑証明書は事前の方がよい。)
公証役場に出頭できない事情のあるときは、公証人が自宅や病院に出張してくれる。
公証人の手数料が必要。出頭時に支払う。金額は財産の価格、相続人の人数などによって変わる。
作成したあと、考えや事情が変わったときは、いつでも内容を書きかえることができる。あとの方が有効な遺言となる。後の遺言は公正証書遺言以外(例えば、自筆証書遺言)でもよい。

<4.秘密証書遺言の作成方法>

遺言したい内容を記載し、署名捺印する。必ずしも本人の自筆で書く必要はなく、代筆でもワープロでも、一部印刷文字が入ってもよい。
訂正のないように書く。書きまちがった場合は(決められた訂正の方法があるが)そのページをはじめから書き直す方がよい。
それを封筒に入れ、証人2人を伴って公証役場に出頭する。
公証人は、封紙に日付と本人の遺言であることを記載し、遺言者と証人がそこに署名し、(遺言書中身と同じ印で)捺印する。
中身を公証人や証人に見せる必要はない。
遺言者がその封書ごと持ち帰り、自分で保管しておく。
公証人の手数料が必要。但し、一律11,000円
作成したあと、考えや事情が変わったときは、いつでも内容を書きかえることができる。あとの方が有効な遺言となる。後の遺言は秘密証書遺言以外の方式でもよい。

<5.遺言書に記載する内容>

遺言書にどのような内容を書くかは遺言者の自由です。
しかし、書いたことのすべてが法律的に意味をもつわけではありません。
例えば、兄弟姉妹は仲良くせよ、と書くのは、子供達に遺言者の遺志や願望を伝える意味はあっても、法的には意味はありません。
以下に記載したことがらは、法的に意味をもつ、つまり法律的効果を生じる遺言内容の代表的なものです。
通常はこのようなことがらを記載するために遺言書が作られます。
このような内容を記載したうえで、遺言者の心情や願望も付け加えておくことはもちろん可能で、むしろそのほうが温かみがあって好ましい遺言書ともいえます。
なお、遺言は以下に掲げるすべてについて書く必要はありません。必要なことだけについて記載すればよいのです。

【相続分の指定】
相続分とは、遺産の2分の1とか3分の1といった相続する割合を言います。
個々の財産の帰属は相続分と言わずに遺産分割と言います。
法律は、遺言がなければどの相続人がどれだけの割合の遺産を相続するかを定めています(これを法定相続分といいます)。
しかし、遺言でこれと異なる割合、つまり相続分を決めておくことができます。
例えば、法定相続分が2分の1である妻に3分の2を相続させる、というように。
相続人全員の相続分を決めてもよいし、一部の相続人の相続分だけを決めてもよろしい。

【遺産分割方法の指定】
遺産分割とは、どの財産を誰が取得するかという、個々の財産の分け方の問題です。
これを遺言で決めておくことができます。
例えば、長男には居宅を、二男には預金を相続させる、というように。
もし、これについて遺言で決めていなければ、死後相続人間で話し合いによって決めることになります。話し合いでつかないときは、調停または審判で決めることになります。
死後にそのような争いが生じないように遺言をしておくのが好ましいのです。

【遺産分割方法の指定の委託】
自分の死後、特定の第三者が遺産分割方法を決めてくれるよう、遺言で委託しておくことができます。
死後の各相続人の希望や状況によって、妥当な遺産分割を行うことを、信頼できる第三者に託しておくのです。
委託を受けた人は原則として法定相続分に合致するように個々の遺産を取得する相続人を決めます。
このような遺言をしておけば、自分であらかじめ決めておかなくても、死後遺産分割をめぐって相続人間で争いが起きることを防ぐことができます。

【遺贈】
遺贈とは、相続人以外の人に、遺言で遺産を贈与することです。
相続人以外の人に、一定割合の遺産を贈与し(包括遺贈)、または特定の財産を贈与すること(特定遺贈)を遺言で決めておくことができます。
身近の人でも、相続人でないため、遺産に対する権利がなく、理不尽な事態となる場合があります。例えば、内縁の配偶者、息子の嫁などの場合です。
このような場合、もちろん生前贈与もできますが、そうでなければ遺言で贈与する、つまり遺贈しておくことが必要です。
なお、贈与する相手は法人でもかまいません。

【祭祀主催者の指定】
仏壇や墓地を管理し、法事を主宰する者を遺言で決めておくことができます。
通常は慣習で自然と決まりますが(例えば、長男)、ときにはこの問題をめぐって相続人間で争いになることがあります。

【遺言執行者の指定】
遺言どおりの内容を実行することを遺言の執行と言いますが、その任にあたってくれる人をあらかじめ決めておきます。
登記や遺贈などの手続を伴うため、多くの場合弁護士が遺言執行者に指定されます。
もし指定がなかったときは、死後、利害関係人の申立てによって家庭裁判所が遺言執行者を選任します。

【相続人の廃除】
相続人が生前被相続人を虐待したり、重大な侮辱を加えたり、その他著しい非行を行った場合は、遺言でその者を相続人から除外しておくことができます。
なお、これは遺言でする以外に、生前中でもすることができます。

【財団設立のための寄付行為】
遺産を財源として、死後財団を設立するよう遺言しておくことができます。

【信託の設定】
特定の他人に遺産を移転し、その者が一定の目的にしたがってその財産を管理してくれるように遺言しておくことができます。

【認知】
認知とは、配偶者以外の間に生まれた子を自分の子であると認める行為です。
生前に事情があって認知しなかった場合、遺言で認知することができます。

<6.遺留分とは>

【遺留分とは】
遺言書に何を書くか、遺言で財産をどう処分するかは遺言者の自由である、と前に書きました。
しかし、正確に言うと、一定の相続人には、相続として最小限度の財産(遺留分)を要求する権利が認められています。
愛人に全財産をゆずってしまったり、世話をさせた子供を差し置いて1人の子供だけに全財産を相続させるようなことを無条件に認めると、相続人のなかにはきわめて気の毒で理不尽な結果が生じるからです。
この、一定の相続人に与えられた最低保障分を「遺留分」と言います。

【遺留分を主張できる相続人】
兄弟姉妹は、相続人である場合でも遺留分は認められていません。
兄弟姉妹以外の相続人、つまり、遺言者の子、配偶者、父母には遺留分が認められています。
但し、遺言者の父母は、遺言者に子がいる場合は法定相続人ではないので遺留分もありません。

【遺留分の割合】
遺留分の割合は本来の相続分(法定相続分)の2分の1です。
例えば、配偶者と子が相続人である場合は、配偶者については、法定相続分は2分の1ですから、遺留分は4分の1、子については、法定相続分はあわせて2分の1ですから、遺留分はあわせて4分の1、子が2人以上いる場合は頭割りします。
子がなく、配偶者と父母が相続人の場合は、配偶者については、法定相続分は3分の2ですから、遺留分は3分の1、父母については、法定相続分はあわせて3分の1ですから、遺留分はあわせて6分の1です。
また、子も配偶者もいない場合は、遺言者の父母だけが法定相続人ですが、この場合の遺留分は3分の1となります。

【遺留分減殺請求】
遺言者が亡くなったとき、自分の相続できる財産が遺留分に満たないことがわかった(兄弟姉妹以外の)相続人は、より多くもらった相続人や受遺者(相続人以外で贈与を受けた者)に対し、「あなたのもらった分を減らします」という意思表示をして自分の遺留分を確保することができます。
この意思表示のことを「遺留分減殺請求」と言います。
これは通常内容証明郵便で行いますが、遺留分が侵害されているとわかったときから1年以内にしなければなりません。
また、遺留分が侵害されているものの、納得のうえで、遺留分減殺請求を行わないということも当然あります。
なお、遺留分を計算する場合、対象となる財産は、死亡時の財産に、死亡前1年以内になされた贈与を加えた額となります。
遺留分減殺請求を受けた側がその請求を承諾し、どの財産のどれだけを渡す、ということで合意できれば、そのとおり実行すればよく、承諾しない場合、または割合は承諾しても、具体的にどの財産のどれだけという点で話しがつかない場合は、調停や裁判で決着をつけることになります。

<7.意思能力(遺言能力)がない者が作成した遺言>

遺言は誰でもできるかと言うと、そうではありません。
まず、満15歳未満の者はできません。このことが問題になることはあまり考えられませんが。
問題は、痴呆や末期状態などで、精神的状態が正常でなく、判断能力が低下している人が遺言をしようとする場合、またはそのような人に遺言をさせようとする場合です。
成年後見制度に基づく成年被後見人、被保佐人、被補助人、成年後見制度施行前の禁治産者、準禁治産者などは判断能力が低下している人に違いありませんが、これらに該当することと遺言能力がないということは必ずしも一致しません。
成年被後見人と認定されている人でも、遺言ができる程度に判断能力が回復することもありますし、そのような認定を受けていなくても、事故などで判断能力を失っていることもあります。
ただし、成年被後見人が判断能力を一時回復して遺言する場合は、医師2人以上の立会いがなければならないことになっています。
有効な遺言ができるかどうかということは、遺言をする(遺言書を書く)その時点において、その人に遺言能力があるか否かにかかっています。
ただ、意思能力、遺言能力と言っても、その有無の基準を具体的に示すことは容易ではありません。要は、遺言の内容を理解でき、かつ表現できる状態か否かを客観的に判断するほかありません。

ところで、遺言能力のない人がした遺言は法律上無効です。遺言はないものとして扱われます。
遺言が有効か無効かは相続人や受遺者の利害に大きく影響します。そのため、その点が争われ、裁判にまで発展するケースも少なくありません。
そのような争いを避けるための方法をいくつかお教えします。
1 当然のことですが、ボケる前に、つまり誰が見ても正常な状態のときに遺言書を作っておくことです。
遺言は何回でも書き変えることができます。従って、自分の身にいつ何が起きるかわからないことを考え、書けるときにとりあえず書いておく、そして気が変わればそのときに書き直す、ということにしておくのが賢明です。
このような場合は、手軽で費用があまりかからない自筆証書遺言がよいでしょう。
ただし、弁護士に見せること、できれば1通を弁護士に預けることをお勧めします。
2 これも自筆証書遺言の場合ですが、遺言書作成の現場に相続人や親族をできるだけ多く立ち会わせて、関係者が納得する状況のもとで遺言をすることです。多くの立会人がいるということは、争いになったとき証人がたくさんいるということでもあります。
3 同じ目的で、遺言書作成の場に録音テープまたはビデオテープを持ち込み、遺言書作成中の遺言者の様子を録音または録画しておくことです。
そのとき遺言者が正常な判断力をもっていたことを状況証拠として残しておくためです。
4 自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言にしておくことです。
公証人は遺言書を作成する際、遺言者に遺言能力が備わっているかどうかを慎重に判断します。従って、公正証書遺言が作成されたということは、遺言者がその当時遺言能力を備えていたというお墨付きが添えられているようなものなのです。
それでもなお争いが生じるおそれがある場合は、公正証書による本来の遺言とは別に、自筆による同趣旨のメモ(形式はどうでもよい)を書いておいてもらうことです。

<8.遺言書の保管と検認>

【遺言書の保管方法】
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの方式があります。
このうち、公正証書遺言は、その原本が公証人(公証役場)において長期間、確実に保管されますので、それが行方不明になったり、誰かがあとで内容を改ざんするような心配はありません。
それに対して、自筆証書遺言や秘密証書遺言は遺言者自身が自分の責任で保管しなければなりません。
とくに自筆証書遺言は、時間がたつと保管場所がわからなくなったり、火事で燃えたり、誰かが故意に破り捨てるというようなこともあります。
作成したことを誰にも言っていなかったため、最後まで誰にも発見されないということもありえます。
このような事態を避けるためには、遺言書を弁護士など信用できる人に預けておくことです。遺言執行者(弁護士のことが多い)を指定したときは、その人にも預けておく必要があります。
できれば、同じ内容の自筆証書遺言を3通作って、1通は弁護士(遺言執行者)に、1通は財産を一番多くもらう人に預け、残る1通を自分が持っておくというのがよいと思います。
なお、自筆証書遺言の内容を生前誰にも知られたくないときは、封筒に入れて封印をしておくのがよいでしょう。こうしてあれば、法律上その遺言書は家庭裁判所以外では開封してはいけないということになります。

【遺言書の検認】
遺言者が自筆証書遺言または秘密証書遺言を残して死んだ場合、その遺言書を保管していた人またはそれを発見した人は、それを家庭裁判所に提出して、検認(確認)を受けなければなりません。
この手続を怠ると過料の制裁があります。
遺言書を発見したのに隠したり捨てたりすると、それが法定相続人である場合は、相続権を失う場合もあります。
遺言が公正証書になっている場合はこの検認手続きは不要です。
検認の申立てがあると、家庭裁判所は相続人が立ち会っている面前で、(封がしてある場合は)開封し、それを相続人に見せたうえ、たしかに検認(確認)したということを調書に記載します。

<9.遺言執行について>

遺言の執行とは、遺言者の死後、遺言の内容をそのとおりに実行することで、そのために権限と責任をもっていろんな処置をするのが遺言執行者です。
遺言執行者は、相続財産、つまり遺言者が残した不動産、預貯金、株券、貸金、貴金属、自動車などを調査し、財産目録を作成し、自分の管理下において管理します。
遺贈を受けた人(受遺者と言います)には実際に財産を引き渡し、登記手続きなどを行います。
財団法人の設立や信託の設定などについても同様です。
また、財産の管理・処分のほか、相続人の廃除、認知(それらが遺言書に書かれてあった場合)なども遺言執行者が行います。
相続人といえどもこのような遺言執行者の職務を妨害することはできません。
このような職務に当たる遺言執行者は、遺言者自身が遺言書の中で(弁護士などを)あらかじめ指定しておくのが普通です。
遺言執行者がいなくても、相続人・受遺者らが協議しながらそれらの手続きを行うことも可能です。
しかし、専門知識を必要とする場合も多く、またやはり遺言執行者がいる方が便利です。
もし遺言書の中で遺言執行者が指定されていなかった場合は、相続人らが家庭裁判所に申し立てて、選任してもらうことになります。
遺言執行者には、遺産の額によって、一定の報酬を支払います。その額については、遺言書の中であらかじめ決めておく、後に、相続人の協議で決める、家庭裁判所に決めてもらうなどの方法があります。

<10.死因贈与について>

遺産をもらう側からすると、遺言書にそのことが書かれてあると、ありがたくも思い、安心することができます。
しかし、遺言書はいったん作成しても、のちに何度でも書き直すことができる、という点は注意を要します。
遺言を書いてもらっているから安心だと考えていると、その後に遺言書が書き変えられ、内容が変わってしまっているということがあり得るのです。
前の遺言書が公正証書で、あとの遺言書が自筆証書遺言であるというように、前とあとで遺言書の形式が違っていても同じです。あとの遺言書が有効であるかぎり、それが最終的な遺言になります。
いったん作成された遺言がのちに変更される背景には、周辺の事情や本人の気持ちが変わった場合、誰かが強く変更を迫った場合などが考えられますが、いずれにしても、一度遺言書を見せられたからと言って安心はできません。
ところで、財産をもらう側からみて、このような危険を避ける一つの方法は、遺言を当てにするのではなく、生前に「死因贈与契約」をしておくことです。
本人がこちらの知らない間に遺言書を作成する場合は別として、事前にある程度の話し合いがなされる場合、例えば、「おまえにはこれこれの財産を残しておいてやる。」というようなことを言われたような場合は、「それなら死因贈与契約書を作っておいて下さい。」と言うのです。
双方の約束ごととして、つまり、贈与する側と贈与を受ける側とで「贈与契約」を交わすのです。ただ、実際に贈与する時期は今ではなく、本人が死んだときとするのです。
これを、死亡を原因とする贈与という意味で「死因贈与」または「死因贈与契約」と言います。
死因贈与契約のメリットの一つは、財産をもらう側にとって事前に内容がわかり、かつそれが一方的に書き換えられることがないという安心感です。その安心感から、よりその人に尽くそうという意欲がわいてくるかもしれません。
また、その効果をさらに強めるために、対象物が土地や建物といった不動産であれば、その契約に基づいて「仮登記」までしておくことも可能です。
死因贈与のもう一つのメリットは、遺言書は一定の要式にかなっていなければ無効になる危険がありますが、死因贈与は普通の契約と同じで、自筆でなければならないといった要件はなく、ワープロで作成された書類に、双方が署名・捺印することによって有効に成立します。
ただ、学説の一部には、死因贈与は、生前に一方的に変更できないのは当然として、遺言によってはこれを取り消すことができる、とする考え方もあります。
この説でいくと、いったん死因贈与契約を結んでも、100パーセント安心できるものでもない、ということになります。
なお、死因贈与には贈与税のような高率の税金はかかりません。相続税で処理されます。

<11.任意後見契約について>

【任意後見契約とは】
「遺言」のテーマの最終回は正確には遺言の話ではありません。
死んだときを想定して生前に意思表示をしておくのが「遺言」ですが、痴呆や精神障害で自分の判断能力がなくなったときを想定して、そうなる前に意思表示をしておく「任意後見契約」というものがあります。
最近は日本人の寿命が延びた反面、痴呆症にかかる人も少なくなく、もし自分が痴呆になったら、財産の管理はどうなるのか、自分の介護は誰が面倒をみてくれるのか、などの不安をもつ人が少なくありません。
そこで、痴呆などになる前に、本人が「任意後見人」を選んでおき、実際に痴呆などになった後の財産管理や自分の介護などをあらかじめ委任しておく、これが任意後見契約です。
平成12年4月1日から施行された「成年後見制度」の一環として設けられた制度です。
もしあらかじめそのような意思表示をしないまま、痴呆などになった場合は、関係者の申立てによって、裁判所が「後見」「保佐」「補助」の宣告をし、後見人、保佐人、補助人を付けて財産管理などに当たらせます。
これは本人の意思と無関係に行われる手続で「法定後見制度」と言います。
これに対し、本人が精神状態の正常なときに、自分の意思で、つまり「任意」に、将来の後見人を決めておくのが「任意後見契約」で、この制度を「任意後見制度」と言います。

【誰に委任するか】
痴呆などになったあとを誰に託するかは(未成年者や破産者などを除き)原則として本人の自由です。
身近で信頼できる親族のうちから選ぶのが自然でしょうが、それに限りません。
親族以外でもよいし、社会福祉法人のような法人も受任者になることができます。
複数の人を受任者にすることもできます。
要は、信頼できて、こちらの希望に沿って行動してくれると思われる人を選びます。

【何を委任するか】
痴呆などになって判断能力が不十分となったときの、自分の生活、療養看護、財産の管理などについてです。
そして、受任者にそのための代理権を与えるという内容を含みます。
例えば、介護サービスの利用、保険給付の受領、医療や医療費の支払い、財産に関する様々な法律行為、訴訟などです。
契約書には、これらのことについて、何をしてほしいか、どうしてほしいとか、どこまでの権限を与えるかなど、できるだけ具体的に記載しておくべきです。
但し、医療行為の代諾、延命治療の拒絶(尊厳死を望む意思)などを委託することはできないとされています。

【任意後見契約の手続】
委任する相手(受任者)が決まれば、その人との間で「任意後見契約」を結び、これを公正証書にします。
この契約書の具体的な記載方法については、公証役場に一定のパターンが用意されていますので、それを参考にして下さい。
このような厳格な手続が定められたのは、任意後見人が行う行為の範囲を明確にし、後日の争いを防止するためです。
この契約がなされたときは、公証人から法務局(登記所)に嘱託し、主な事項について登記がなされます。

【実際に痴呆などになったとき】
さて、現実に痴呆などにより本人の判断能力が不十分になったときは、本人、配偶者、任意後見人、四親等内の親族の申立てにより、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任し、その監督のもとで任意後見人による保護が開始されます。
任意後見人のほかになぜ任意後見監督人を選ぶかというと、任意後見人が不適切な行為、本人の不利益になるような行為をしないように監視、監督するためです。

<12.遺言にかかわる費用>

遺言にかかわる費用としては、
1 遺言書の作成のための費用
2 遺言書の保管のための費用
3 遺言の執行のための費用
があります。

【自筆証書遺言の作成費用】
自筆証書による遺言を、原稿も自分で考え、自分で書いて完成させるのであれば特別の費用はかかりません。
弁護士に自分の意思や財産の状況について説明し、弁護士に原稿を作ってもらうときは、弁護士の手数料がいります。
その額は「弁護士会報酬規定」に次のように定められており、基本的には相続財産の総額に応じて算出します。
相続財産の総額が300万円以下の部分    20万円
300万円を超え3000万円以下の部分     1%
3000万円を越え3億円以下の部分     0.3%
3億円を超える部分             0.1%
例えば、相続財産が1億円相当の場合、この方法で計算すると、68万円になります。
これは基準または目安で、定型的で簡単な内容の場合はこれより低額となり、とくに複雑な事情がある場合は個別に協議して決めます。

【公正証書遺言の作成費用】
公正証書遺言を作成する場合も通常は事前に弁護士に相談し、弁護士に原稿を作ってもらい、それを弁護士を通じて公証役場に提出する、という方法をとります。
この場合、弁護士に対する手数料は自筆証書遺言の場合の金額に3万円加算されます。
また、弁護士の手数料のほかに、公証人の手数料がかかります。
公証人の手数料は、相続財産の価額と相続人・受遺者の数などによって次のように定められています。
相続人・受遺者ごとに、取得する相続財産の価額を基準に算定し、それを合算します。
1人の相続人の受け取る金額が
100万円まで、   5,000円
200万円まで、   7,000円
500万円まで、  11,000円
1,000万円まで、17,000円
3,000万円まで、23,000円
5,000万円まで、29,000円
1億円まで、    43,000円
なお、相続財産の合計が1億円に満たないときは11,000円が加算されます。
例えば、
5000万円の相続財産を1人に残す遺言であれば、費用は4万円となります。
5000万円の相続財産を5人に均等に残す遺言であれば、費用は9万6000円です。
1億円の相続財産を2人に半分ずつ残す遺言であれば、費用は5万8000円です。
また、公証人が病院等に出張して公正証書遺言を作成する場合は、手数料が5割増しになり、さらに日当と交通費が加算されます。

【秘密証書遺言の作成費用】
弁護士の手数料は上記と同じですが、公証人の手数料は財産の金額に関係なく、一律11,000円です。

【遺言書の保管のための費用】
自筆証書遺言を自分で保管するだけなら費用はかかりません。
公正証書遺言も自分で正本を保管するかぎり費用はかかりません。(原本は公証役場でただで保管されます。)
自筆証書遺言、公正証書遺言正本、秘密証書遺言を他人に預ける場合でも、子供など親族であれば費用はいらないはずです。
信託銀行に預ける場合は、一定の手数料が請求されます。
弁護士に預ける場合、通常保管の手数料としては請求されません。遺言書作成のアフターサービス、もしくは弁護士は遺言書のなかで遺言執行者に指定されることが多いので、遺言執行者としての報酬に含まれていると解釈するからでしょうか。

【遺言執行者の報酬】
遺言執行者は、遺言のなかであらかじめ指定されている場合と、死後裁判所に選任してもらう場合がありますが、どちらの場合も、遺言執行に対し、執行者に報酬を支払わなければなりません。
その金額については、(1)遺言の中で定める方法、(2)相続人と遺言執行者で話し合って決める方法、(3)家庭裁判所に決めてもらう方法があります。
(1)、(2)の場合の基準として、弁護士会の報酬規定では次のように定められています。
相続財産が300万円以下の部分      30万円
300万円を超え3000万円以下の部分    2%
3000万円を超え3億円以下の部分      1%
3億円を超える部分については       0.5%

<13.遺言書についての当事務所の取り扱い>

最後に、依頼者から遺言書を作成したいとの依頼を受けた場合の当事務所の取扱いについて説明します。
まず、遺言の方式について、自筆証書遺言でよいか、公正証書遺言、秘密証書遺言にするか、をいろいろな角度から検討して選択します。
次に、遺言者から、どういう内容の遺言をしたいのかというメモ書きと、財産の概要、印鑑証明書(公正証書遺言の場合)を提出してもらいます。
戸籍謄本、登記簿謄本、評価証明書などの必要書類は当事務所で取り寄せます。
そこまで準備したうえ、弁護士が遺言の本文や財産目録などを起案し、遺言者と数回打ち合わせをしたうえ、また場合によっては公証人と事前相談をしたうえ、遺言内容を確定します。
ほとんどの場合、依頼を受けた弁護士が遺言執行者になります。公正証書の場合は証人にもなります。
遺言執行者には当事務所の年代の異なる複数の弁護士を当てます。遺言者より先に執行者たる弁護士が死亡することもあり得るので、その場合でも遺言執行に支障をきたさないようにするためです。
完成した遺言書は、たいていの場合、当事務所で預かり、銀行の専用貸金庫で保管します。
自筆証書遺言は、同じものを2~3通作成し、1通は遺言者本人にも持っておいてもらいます。
公正証書遺言は、正本(遺言執行に必要なもの)を当事務所で預かり、謄本(写し)を本人に持っておいてもらいます。
秘密証書遺言は、当事務所で預かり、希望されるときは本人に原稿をお渡ししておきます。
なお、当事務所では、遺言の方式を問わず、弁護士の手数料(保管を含めて)として、平均20万円程度をいただいています。