資本業務提携における「資本」部分のスキーム選択

<ポイント>
◆株式、新株予約権、CBのいずれを割り当てるか
◆資金調達と株主構成の変化のタイミングを考える
◆複数スキームを組み合わせることでバリエーションが拡がる

業務提携することを前提に提携先と一定の資本関係をもつことを資本業務提携といいます。
業務面だけでなく資本関係まで含めた提携関係とする狙いは、提携関係をより強固なものとするほか一定の資金調達を図ることにあります。
資本提携部分のスキームとしては、提携先に株式、新株予約権、CB(転換社債型新株予約権付き社債)のいずれかを割り当てることが選択肢になってきます。
3つのうち複数のスキームを組み合せたり、具体的な条件を調整することでバリエーションがひろがりますが、ここでは3つのスキームのいずれを採用するかについて基本的な考え方を整理してみます。

提携先がどのタイミングで株主になるのか、直近時にまとまった資金調達が必要かどうかがポイントになります。
以下、単純化するために株式などを発行する側の企業の視点で説明します。

まず提携先に株式を割り当てる場合です。
株式の割当てに際して提携先から払込みがなされますから、提携開始時に一定の資金調達ができます。提携事業をすすめるにあたって設備投資などの長期的な資金需要がある場合にはメリットになります。
その一方で、提携先が直ちに株主になることに留意が必要です。提携事業がうまくいくかどうかわからない状況下で提携先に多数の株式を割り当てる場合は特に問題です。
事業の進捗に応じて資本関係を築いていきたい場合には、提携開始時に割り当てる株式数を減らす(ただし調達する資金額も減ります)、あるいは他のスキームの採用を検討するといった対処が必要です。

CBによる場合、社債の払込みがなされますから、提携開始時に資金調達できる点では株式割当てによる提携スキームと共通します。その一方で、どの時点で提携先が株主になるかには違いがあります。
CBは後に株式に転換されることで具体的な資本関係を生じるためエクイティファイナンスの一種とされますが、転換されない間は金銭的な債権債務関係です。
提携事業の進捗に合わせて社債が株式に転換されるように転換条件を設定することで、いきなり提携先が株主になることを回避することができます。
提携開始時に資金調達しつつ事業の進捗次第で資本関係を築いていきたいというケースにはCBは適しています。
留意点としては、株式への転換がなされない場合には社債の返済資金が必要になることです。返済期限や転換条件の設定について相手企業と交渉するほか、いざというときに返済資金を工面できるような備えが必要です。

新株予約権による場合、一般には提携開始時点では資金調達はしにくくなります。
有償で新株予約権を割当てる場合であっても、割当て時の払込み額は少額にとどまるのが通常であり、まとまった資金調達にはなりません。
その一方で、新株予約権は行使されてはじめて具体的な資本関係を生じるものであるため、予約権の行使期間や行使条件を調整することで提携事業の進捗に応じた資本関係を築くことができます。
提携開始時の資金需要には他の方策で対応しつつ、事業進捗に応じて提携先と資本関係を築いていこうというケースに新株予約権の利用は適しています。
また、応用パターンとしては、予約権の行使価格を低く抑えることでオプションの価値を高め、予約権割当て時の払込み額を高額に設定するスキームがありえます。予約権の割当先にこうした条件を了承させるにはそれなりの交渉力が必要ですが、新株予約権による資本提携スキームを採用しつつ提携開始時の資金調達額を大きくするためには有効な手段となります。
なお、新株予約権の割当て時に払込みを受けた資金は予約権行使前であっても純資産の部に計上されるため、自己資本比率を維持できます。

3つのスキームの基本的な性格についてみていきましたが、複数のスキームを合わせ技で採用することでバリエーションが拡がります。
たとえば、今年4月に公表されたブックオフとヤフーとの資本業務提携では、ブックオフが株式とCBの双方を同時に発行するスキームとなっています。同社の資金調達額は株式により約22億円、CBにより約77億円です。ヤフーはブックオフの発行済株式の約15%を有する筆頭株主となり、さらにCB全部を株式に転換した場合には約43%の株式を保有することとなります。
ただし、ヤフーがCBを株式に転換するためにはブックオフが一定の営業利益をあげることが条件とされています。具体的には、2015年3月期から2018年3月期までのいずれかの年度にブックオフの営業利益が22億円超となった場合にCBの45%を株式に転換することができ、営業利益が27億円超である場合にはCB全部を株式に転換することができるものとされています。
ブックオフとしては実質上ヤフーの傘下に入ることを受け入れたうえでの提携ですが、約99億円全額を株式発行で調達した場合には既存株主の権利の希薄化が一気に生じるため、CBとの合わせ技により段階的にヤフーの持株割合が高くなるスキームとしています。あるいは、ヤフー側としてもブックオフの業績を見極めながら持株割合を高くしていこうと考えたのでしょう。

上場会社の例を挙げましたが、非上場のベンチャー企業が他の事業会社と提携するようなケースにおいてもエクイティ部分のスキームを工夫することで双方の利害を調整することができます。