行為者および関係者に対する処分・制裁
【関連カテゴリー】

<ポイント>
◆処分の対象者は不正行為等の行為者(共犯者を含む)、その管理監督者等
◆決裁権者は行為の重大性により直属の上司から担当取締役まで
◆決定には正しい手順が必要で、決定後は速やかに対象者に告知・説明すること

内部通報事務局による事実調査や違法性の評価が終了し、報告書が作成された後、不正行為等を行った者及び関係者に対し、その立場や違法性・悪質性の程度等に応じて一定の処分や制裁が行われます。 しかし、前回も述べたように、会社(組織)内で行われる不正行為等は内部通報がその端緒になるものばかりではありません。そのため、不正行為等を起こした者に対する処分や制裁に関しては内部通報制度をテーマとする本連載の対象範囲を超えています。 従って、ここでは内部通報制度に関係が深いことがらを中心に述べ、それ以外は概略の説明にとどめます。 同様のことは「事後の是正措置・再発防止策」についても言えるので、このテーマについても本連載ではとくに取り上げないこととします。

処分の対象となる行為は、違法行為、つまり一般的な法律に違反する行為(刑事事件を含む)のほか、就業規則、コンプライアンス指針、その他の社内規定や遵守すべき規範に反する行為を含みます。それらを含めて「不正行為等」と表現します。 また、その行為者には「共犯者」、つまり、その行為を共同で行った者、行為者をそそのかした者、行為者を手助けした者を含みます。 個人的な不正行為のほか、その部署の管理職が指示・黙認していた「部署ぐるみの不正行為」もあり、さらに規模が大きくなり役員まで関わる「会社ぐるみの不正行為」もあります。

以上の「行為者」のほかにも、その不正行為に関連して責任を問われる人物がいます。それは次のような人物です。 行為者の上司、つまり管理監督者で、行為者に対し適切な監督指導責任を怠った者です。 管理監督者ではないが、不正行為等が行われるのを知っていて「見て見ぬふりをしていた者」はどうでしょうか。知った以上はすぐに上司に報告、相談するか、内部通報をするべきであるのにそうしなかった。ために不正行為が止められなかったという場合です。 本稿執筆者としては、「不正行為を見て見ぬふりすることは許されない」という立場ですから、そのような傍観者に対して何らかの制裁を加えるべきだと考えています(とくに最近の企業(組織)不祥事を見るにつけ)。 次に、内部通報に関し、虚偽の内部通報を行った者、事実調査に協力しなかった者、虚偽の供述をした者、通報者探しを行い通報者に嫌がらせ等を行った者、などに対する制裁も考えられます。

処分や制裁を決定するのは会社(組織)そのものです。但し、事実上の決裁権者や告知者はそれぞれのレベルで決まっています。 軽微な案件については直属の上司(管理職)が注意するだけということもあるでしょう。日常的に行われている管理監督上の職務の一環として。 重大な案件については人事部に付託されたり、賞罰委員会の審議に付せられたり、コンプライアンス委員会等に諮問されたり、それぞれの会社(組織)にルールが決められているはずです。 行為者が取締役の場合は、取締役会の決議で(取締役の解任はできませんが)業務執行権の剥奪や変更、報酬の返上等を決定します。

処分や制裁を科すにはいくつかの要件が必要です。 まず、どういう場合にどういう処分や制裁があるか、というルールを(就業規則などで)予め決めておき、かつそれを周知しておかなければなりません。不意打ち的に行うことは許されません。 次に、所定の手順を踏まなければなりません。本人の言い分(弁解)を十分に聴取することは(それを認めるかどうかは別として)不可欠です。そしてそれを記録に残すこと。 処分や制裁を決定したときは、本人に速やかにその内容・理由を告知・説明すること。 行為の重大性や悪質性と処分・制裁とのバランスが取れていることも要件です。軽微な不正行為に対して解雇を言い渡すなどということはできません。 ところで、一定の処分・制裁に相当する不正行為を犯したときでも「情状」を斟酌することは可能であり必要です。例えば、行為の悪質性の程度、故意か過失か、反省しているか、同種の前歴はないか、同じ行為を再び起こす可能性はないか、上司や会社にその行為をとどめられなかった責任はないか、被害者がいる場合に謝罪や弁償を行ったか、等々。

なお、形式的には処分・制裁ではないが、当該問題の発生を契機として、好ましくない職場環境や人間関係を是正するために、行為者や関係者に対し配置転換(転勤を含む)を命じることがときどき行われます(業務上の必要という理由で)。命じられた側に不満や不利益がであっても、会社(組織)は人事権や裁量権を持っているため、それが著しく不当に行使されたと言えない限り、社員はそれに従わざるを得ません。

また、事実調査によっても事実や違法性等を認定できなかった場合があります。灰色は白と扱わなければならないことは前にも述べました。その場合は当然処分や制裁は行われないのですが、本人に対してそのことを速やかに伝え説明することが必要です。関係者をいつまでも不安定、不安な状態に置くことは許されません。