著作権等管理事業法16条の「正当な理由」について(知財高裁令和3年10月28日判決)
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◆JASRAC等の著作権等管理事業者に対して楽曲の利用申し込みをしたときに利用を断られることがあるのか
◆それはどのような場合か

1 本件の事案の概要は次のとおりです。
演奏家(控訴人)が,JASRAC(被控訴人)に対して,ライブハウスでの演奏利用許諾の申込みをしたところ,そのライブハウスがJASRACの管理する著作物の著作権使用料の清算が未了であることを理由として拒否されました。そこで、演奏家は,そのライブハウスで予定していたライブの中止を余儀なくされ,リハーサルが無駄になるなど,演奏者としての権利,演奏の自由,著作者人格権が侵害され,これにより精神的苦痛を被った等の主張をして,不法行為による損害賠償請求権に基づいて,慰謝料等を請求するなどしました。
一審の東京地方裁判所は、演奏利用許諾の申し込みを拒否したことは、不法行為を構成するものではないとして、演奏家の請求を棄却していました。
2 著作権等を管理する事業者の業務の適正な運営を確保するために、著作権等管理事業法という法律があります。その16条では、「著作権等管理事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない」とされています。逆に言えば、「正当な理由」があれば利用を許諾できることになります。この事案では、その「正当な理由」の有無が争点となりました。
3 知財高裁では、以下のとおり判断して演奏家の控訴を棄却しました。
(1)まず、演奏家が希望する楽曲を演奏することができる利益を有しており、こうした利益は表現の自由として保護される演奏家の自己表現又は自己実現に係る人格的な利益として位置づけられるとして民法709条の「法律上保護される利益」に当たるとされました。そこで、演奏家の希望する楽曲の利用の許諾を拒否する行為は上記「正当な理由」がない限り、演奏家の人格的利益を侵害する行為であって不法行為を構成するとしました。
(2)では、上記「正当な理由」はどのように判断されたのでしょうか。
知財高裁は、結論として、本件において利用者からの演奏利用許諾の申込みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反するか否かの観点から判断すれば、申し込みを拒否することに「正当な理由」がある、として不法行為に該当しないと判断しました。
(3)この判断に際しては、本件における、要旨、以下の事情を認めて演奏家らの利用申込みに許諾を与えることは,通常の委託者(著作権者)の合理的意思に反するものであり,JASRACの管理団体としての業務の信頼を損ねかねないものでもある等として拒否する「正当な理由」があると認めました。
a) ライブハウスの営業実態等からすると,ライブハウスの経営者は,ライブハウスにおける楽曲に係る演奏主体に当たるということができる。
b) ライブハウスにおいては長期間にわたってJASRAC管理楽曲が無許諾で使用されていたにもかかわらず,過去の使用料が全く清算されていない。
c) ライブハウスの経営者らが著作権の管理に係るJASRACの方針やライブハウスでのJASRAC管理楽曲の演奏の差止め等を命じた別件一審判決に従わない旨を表明していた
d) 演奏家らによるJASRAC管理楽曲の利用申込みは,従前どおりのライブハウスの営業形態を前提としつつ,形式的に演奏の利用主体を出演者としてJASRACに利用許諾を求めるライブハウスのホームページ等の呼びかけに応じた形でされたものであった。
e) 演奏家らのライブハウスの出演歴があり、演奏家らが別件一審判決直後もライブハウスにおいて無許諾でJASRAC管理楽曲を演奏していた
4 本件では、使用許諾の申請をしたのは演奏家でしたが、ライブハウスとの関係性などをみて「正当な理由」を判断したものです。著作権等管理事業法が問題となった珍しい事例として、今回紹介しました。