経営者保証に関するガイドライン(第3回)
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<ポイント>
◆保証債務の履行に際しては、生計費や自宅を残すことができる場合がある
◆保証人は残存資産を除く全ての個人資産を換価処分した金額で保証債務を履行する
◆その余の金額については保証債務の免除を求め、金融機関等はその要請に誠実に対応する

「経営者保証に関するガイドライン研究会」(事務局 日本商工会議所、一般社団法人全国銀行協会)が公表し、今年2月1日から適用開始となっている「経営者保証に関するガイドライン」に関し、2回にわたり、ご説明してきました。(第1回第2回
今回は最後に、保証債務の履行基準(残存資産の範囲)、保証債務の弁済計画、保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱いなど、保証債務履行の内容面についてご説明します。

(1)保証債務の履行基準(残存資産の範囲)について
ガイドラインでは、保証人の手元に残すことができる残存資産がありうることを前提に、金融機関等は、必要に応じ支援専門家(弁護士、公認会計士、税理士等で、全ての金融機関等がその適格性を認めるもの)とも連携しつつ、その資産の範囲を決定することとされています。その際、考慮されるのは以下のような点です。

イ)保証人の保証履行能力や保証債務の従前の履行状況
ロ)主たる債務が不履行に至った経緯等に対する経営者たる保証人の帰責性
ハ)経営者たる保証人の経営資質、信頼性
ニ)経営者たる保証人が主たる債務者(会社等)の事業再生、事業清算に着手した時期等が事業の再生計画等に与える影響(後述します)
ホ)(破産者や債務者が手元に残すことが法的に許容される)破産手続きにおける自由財産(99万円以下の金銭、生活に不可欠な衣服・寝具・家具や、年金受給権など差押禁止財産)の考え方や、民事執行法に定める標準的な世帯の必要生計費(66万円)の考え方との整合性

ただ、保証人は、全ての金融機関等に、その資力に関する情報を誠実に開示し、その正確性について表明保証することが前提です。金融機関等から求められれば、支援専門家が、その表明保証の適正性について確認、報告することも前提となります。
なお、金融機関等は、保証債務の履行請求額の合理性について、主たる債務と保証債務を一体として判断することになっています。

ニ)に関して、経営者たる保証人による早期の事業再生等の着手の決断が早かった場合、一定期間(雇用保険の給付期間が参考とされます)の生計費(月額33万円)、「華美でない」自宅等を残すことが検討されることになります。
その決断が会社等の主たる債務者の事業再生の実効性の向上等に資するものとして、金融機関等としても一定の経済合理性が認められる場合です。
これら財産を残存財産として残すことができるのは、経営者の安定した事業継続、事業清算後の新たな事業の開始等(事業継続等)のためという目的によって正当化されます。

このようなルールによって残存資産に含められる資産については、その上限が決められています。会社等の債務整理が再生型手続きを取っている場合は、破産など清算型手続に至らなかったことによる金融機関等の回収見込み額の増加額が上限となります。会社等の債務整理が清算型手続きの場合は、その手続きに早期に着手したことによる金融機関等の回収見込み額の増加額が上限となります。つまり、保証人が経営者として、早期の再生、清算を決断したことによって金融機関等にもたらしたと考えられる金額の範囲内で、保証人にも資産の保有が認められるということです。
経営者たる保証人にもメリットを設けることで、早期の再生、清算の決断を促す効果もあると考えられます。
ただし、会社等の債務の整理手続きの終結後に、保証債務のみについてガイドラインにしたがった整理を開始するときは、ニ)のルールは適用されないこととなっています。

また、主たる債務者たる会社等の債務整理が再生型手続の場合、本社、工場等、会社等が事業を継続する上で最低限必要な資産が保証人の個人所有資産である場合は、原則として保証人が会社等にその資産を譲渡し、会社等の資産とすることにより、保証債務の返済原資から除外することとなります。保証人がその対価を得たとき、その対価は原則として保証債務の返済原資となりますが、上記ニ)の考え方に従って、残存資産の範囲が決定されることになります。

このような残存資産の範囲決定に際して、保証人は生計費や華美でない自宅等を残す必要性について金融機関等に説明する必要があり、金融機関等はその説明を受け、これを真摯かつ柔軟に検討することとされています。

(2)保証債務の弁済計画について
イ)保証債務の弁済計画の記載内容は、原則として以下のとおりです。
a)保証債務のみを整理する場合は、主たる債務との一体整理が困難な理由、保証債務の整理を法的債務整理手続によらずガイドラインで整理する理由
b)財産の状況(保証人の自己申告によるが、残存資産を除いた財産を処分するものとして財産を評定する。保証人による金融機関等への整理申出時点が基準時)。
c)保証債務の弁済計画(原則5年以内)
d)資産の換価・処分の方針
e)金融機関等に要請する保証債務の減免、期限の猶予その他の権利変更の内容

ロ)保証債務の減免を要請する弁済計画は、残存資産を除く全ての資産を処分換価することによって得られる金銭(処分換価の代わりに当該資産の公正な価額での弁済も可)をもって、まず担保権者その他の優先権を有する債権者へ優先弁済したのち、全ての金融機関等(ただし、20万円以上の債権者に限る。)に、債権額の割合に応じて弁済を行い、その余の保証債務について免除をうけるとの内容を記載します。
つまり、残存資産を除く全ての資産を保証債務の返済に充て、それで足りない部分について免除を求めるというものです。
なお、対象となる金融機関等の債権額は全ての金融機関等の同意があれば、20万円以上から変えることができます。金額如何にかかわらず、弁済計画の履行に重大な影響を及ぼす恐れのある債権者を対象債権者に含めることもできます。

(3)保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取扱い
金融機関等は、以下の全ての要件が充足される場合、保証人からの保証債務の一部履行後に残存する保証債務の免除要請に誠実に対応することになります。
イ)保証人が全ての金融機関等にその資力に関し誠実に開示し、その正確性について表明保証を行い、支援専門家が、金融機関等の求めに応じて、その適正性について確認、報告すること。
ロ)保証人が資力を証明するために必要な資料を提出すること。
ハ)主たる債務及び保証債務の弁済計画が金融機関にとっても経済合理性が認められること
ニ)保証人の資力の状況がイ)の表明保証したのと事実が異なることが判明した場合、免除分及びその延滞利息も付加して追加弁済を行うことを金融機関等と合意し、書面で契約を締結すること。

(4)その他
このガイドラインによる債務整理を行った保証人について、金融機関等は当該保証人が債務整理を行った事実などを信用情報登録機関に、報告、登録しないこととされています。