秘密録音の証拠化について

<ポイント>
◆秘密録音が証拠として認められるかは争いになるケースがある
◆争いになった場合には秘密録音による権利侵害の程度が問題になる
◆権利侵害の程度が大きい場合でも証拠として認められるケースもある

会話の相手方に秘密で会話を録音し(以下「秘密録音」といいます)、その録音を民事裁判の証拠として使用することが可能か、という質問を依頼者からよく受けます。依頼者からすると、無断で録音をするのは何となく違法性を感じて気が引ける、違法性のある証拠が裁判で認められるのか不安、ということでしょう。
このような質問をよく受ける背景としては、秘密録音がより容易になったという事情もあると思います。対面での会話については、録音アプリをインストールしたスマートフォンをポケットにでも入れておけば秘密録音ができます。また、電話での会話についても、最近の携帯電話であれば録音機能が付いているものが一般的なので、簡単な操作で録音が可能です。

秘密録音が民事裁判の証拠として認められるか(証拠能力があるか)について判断した裁判例を概観すると、秘密録音による権利侵害の程度について判断したうえで、権利侵害の程度が大きい場合には秘密録音を証拠とする必要性について検討している例が多いように見受けられます。
したがって、大まかに整理すると、
(1)権利侵害の程度が小さい場合→証拠能力あり
(2)権利侵害の程度が大きいが、証拠とする必要性が大きい場合→証拠能力が認められる場合あり
(3)権利侵害の程度が大きく、証拠とする必要性が小さい(ない)場合→証拠能力なし
となるように考えられます。

(1)は分かりやすいと思うので、本稿では(2)、(3)の裁判例のケースだけご紹介します。

(2)について
令和2年8月24日の東京地裁の裁判は、ラブホテル内の男女の会話を秘密録音した証拠について、プライバシー侵害の程度が大きいとしつつ、事案の内容等から秘密録音を証拠として提出せざるを得なくなったことからすると、その証拠能力は否定されないと判断しました。事案の詳細については割愛しますが、秘密録音が有効な証拠であり、かつ、その他の証拠がないという事案での判断ということです。

(3)について
平成28年5月19日の東京高裁の裁判は、録音が明示的に禁止されている大学のハラスメント委員会の審議を秘密録音した証拠について、ハラスメントに関係するセンシティブな情報を扱う委員会の性質上、審議の秘密の必要性が高く、権利侵害の程度が大きく、かつ、秘密録音をした当事者の主張との関係で証拠価値が乏しいことから、証拠能力がないと判断しました。

いくつかの裁判例を概観した後の感触としては、秘密録音の証拠能力が否定されるケースは少ないだろうと考えます。