監査役制度が変わります

最近相次いだ商法の改正のなかで監査役制度が大きく変わりますので留意してください。
改正の趣旨は一言で言うと、監査役の地位、権限、機能を高めようということです。
かつて「閑散役」とまで悪口を言われていた監査役ですが、会社が適法かつ合理的に経営されるためには取締役の権限を拡大するだけではなく、それを監視し、チェックする監査役の役割がきわめて重要です。
この機能が不十分であったため過去多くの企業不祥事が発生しました。
そこで、監査役の地位を安定させ、代表取締役や取締役に遠慮なく必要な発言ができるよう、またむしろそのような役割をはたす義務がある、というように監査役の制度が改められようとしています。

【監査役の任期は4年に】

監査役の任期は古くは1年でしたが、累次にわたる商法の改正にともない、2年に、3年に(平成5年改正法)と伸長され、今回の商法改正で、監査役の任期は4年に伸長されました。
取締役の任期は最近むしろ2年(法定の最長)から1年に短縮される傾向ですから、それとは逆の動きです。
監査役の任期を長くするのは、その身分保証を強化し、安心して任務を遂行できるような環境を作ろうということです。
任期が短いと、その間取締役の意に添わない言動をとったような場合、すぐに任期がきて辞めさせられる(再任されない)ことになりかねません。
そして、監査役がそのことを警戒するようになると、つい取締役に迎合し、必要な意見も言うことを躊躇してしまい、代表取締役や取締役の独走を許す結果になってしまうのです。

もっとも、ただ任期を伸ばしても、その任期途中で簡単に辞めさせられるようでは意味ありません。
気に入らない監査役に対し社長が任期途中で「君すぐ辞めろ」と言うケースは少ないとしても、いわゆる役員定年とか役員全体のローテーションの関係で、本人は不本意なのに、任期途中で辞任せざるをえないケースはめずらしくありません。
場合によると、就任の条件として「2年で辞任する」という事実上の約束をさせられることもあります。
したがって、監査役の地位の安定という見地からは、任期の定めもさることながら、途中辞任が簡単にできない、させられない、という手当が必要になってきます。

【辞任に関する意見陳述権】

そこで考えられたのが「意見陳述権」という制度です。
従来でも監査役の選任と解任に関して意見の陳述権が認められていますが、これを辞任した場合にまで広げました。
「私はこういう理由で意に反して辞任させられました」ということを、辞任したあと最初の株主総会に出席して述べる権利が認められたのです。
辞任した監査役自身の意見陳述権だけでなく、ほかの現任の監査役の意見陳述権も認められます。
もっとも日本の企業環境のもとでこういう権利が実際に行使されることは考えられません。
現行の選任・解任に関する意見陳述権でも、それが行使されたということは聞いたことがありません。
しかし、これは取締役側に対する牽制です。「気に入らない監査役でも簡単には辞めさせられない」と代表取締役や取締役に思わせるところに意味があります。
役員定年の内規があるからといって、任期途中の辞任を事実上強要することも、今回の改正商法の趣旨からして是認されないでしょう。
定年内規は残すとしても、それは就任時にまだ定年に達していないことが条件であるという意味にとどめ、いったん選任されたあとは定年が到来しようとしまいと、任期満了まで職を全うするということでなければなりません。

【任期伸長の適用時期】

改正商法の施行は平成14年5月1日です。
しかし、上記監査役の任期の伸長は「施行後最初に到来する決算期に関する定時総会で選任される監査役から」ということになっています。
3月決算の会社は、平成15年3月が「施行後最初に到来する決算期」ですから、それに関する定時株主総会は来年、平成15年6月ということになります。
したがって、今年、平成14年6月の定時株主総会で選任される監査役には改正前の商法が適用され、その任期は3年です。
そのような会社では、監査役の任期に関する定款変更は必ずしも今年(平成14年6月)の株主総会で決議する必要はありません。
来年(平成15年6月)の定時株主総会で決議すればよいことです。
今年決議しても、平成15年6月の定時株主総会(正確にはその終結時)より前に選任される監査役にはこの定款の規定は適用されないことになります。
したがって、今年の定時株主総会で決議する場合は、付則か改正理由の文言中でその適用時期について付記しておくべきでしょう。
今年この件以外に定款変更の議案がなく来年ならあるというのであれば、わざわざ2回も特別決議の要件に神経を使うより、来年の定時株主総会において決議すればよいのではないでしょうか。

【監査役の取締役会への出席義務と意見陳述義務】

商法改正前でも、監査役は取締役会へ出席することができる(出席権がある)という規定にはなっていました。
しかし今回の改正で、「出席することを要する」(出席義務)、「必要ありと認めるときは意見を述べることを要する」(意見陳述義務)という形で規定されました。
監査役がもしその義務を履行しないと、少なくとも形式的には法令違反になります(それが直ちに損害賠償義務に結びつくかどうかは別問題として)。
したがって、この規定は、監査役に対し、よほどのことがな限り取締役会を欠席してはいけない、という規範意識を今まで以上に持たせることになるでしょう。
とくにそのような認識の不十分であった社外の非常勤監査役にとっては意識改革が必要になってきます。

ところで、監査役が取締役会に出席し、意見を述べる権利および義務があるとしても、それが現実に実行されるかどうかは別問題です。
会社側でも、監査役(とくに社外監査役)が取締役会に出席しやすく、発言もしやすいような環境や条件を作ることに留意すべきです。
たとえば、
(1)報酬面で、過去の「閑散役」を前提にしたような低廉な報酬や出張旅費は改善する必要があります。
(2)取締役会の期日を期初に固定したり、そうでなければできるだけ早い時期に開催日時を通知することが必要です。
(3)開催場所(東京・大阪交互開催など)や開催の時間帯(早朝・夜など)についても監査役の事情によっては工夫する必要があります。
(4)社外監査役と常勤監査役が緊密にコミュニケーションをはかり、会社の現状や問題点につき日頃から共通の認識をもつようにすることが重要です。
(5)取締役会の前に資料等を(とくに社外監査役に)提供しておくことが必要です。
(6)議事の進め方において、監査役が意見を述べやすい雰囲気を作ったり、監査役の発言を傾聴し、尊重する取締役側の姿勢も重要です。
(7)取締役会以外にたとえば「経営会議」などがもたれる場合、そこですでに説明がなされたことで取締役会での説明が省略されることがあります。しかしその結果、監査役(とくに社外監査役)が問題点を十分理解することができず、困惑したり、安易に多数意見に流れたりすることのないよう注意する必要があります。

【監査役選任についての監査役会の同意権・提案権】

商法特例法上の大会社においては、株主総会に提出する監査役選任議案につき、監査役会に同意権・議案の提出権が与えられました。
改正前も、監査役には、監査役の選任について株主総会で意見を述べる権利がありましたが(実行された例は知りませんが)その意見には拘束力がありませんでした。
まず、株主総会において監査役の選任議案を提出するには、事前に監査役会の同意を得ておく必要があります(その議案の決定自体は取締役会の権限ですが)。
それだけではなく、監査役会はより積極的に、監査役選任の件を株主総会の議題にするよう、取締役に請求することができます。
さらに、「具体的候補者〇〇氏を監査役に選任する件」を株主総会の議題にするよう、取締役に請求することができます。
取締役がそのような提案を無視した場合は100万円以下の科料という罰則規定まで設けられました。
つまり、監査役会から提案があったときはかならず株主総会にその議案を提出しなければならないということです。
こうすることによって、監査役がその人事権を握られている取締役会に対し対等の立場に立ち、独立性を保ちうるというわけです。

【社外監査役の人数】

商法特例法上の大会社にあっては、従来3名以上いる監査役のうち、1人以上の「社外監査役」がいることが必要で、また1人で足りました。
またその場合の社外監査役の資格は「就任前5年間、その会社または子会社の取締役または使用人でなかったこと」でした。
それが今回の改正で、3人以上の監査役のうち、その半数以上が社外監査役でなければならないことになりました。
また、社外監査役の資格が「就任前にその会社または子会社の取締役または使用人となったことがないこと」、つまり「まったく会社と無関係な人」と厳格になりました。
この規定に違反した場合も罰則規定があります。
このような規定をおいた理由も監査役の取締役会からの独立性を高めることにあります。
長年使用人を務めて監査役になった人にとってその上司であった取締役を監視することは実際上無理ということです。
取締役の監視に当たる主役は独立性をもった社外の人材でなければならないという考え方は、今やコーポレートガバナンスの実効性を確保するために不可欠であると認識されています。
反面、日本にそれだけの社外監査役の人材がいるか(供給源があるか)ということが問題になりつつありますが。
なお、この規定による監査役の員数や要件を満たさなければならないのは、3月決算の会社の場合、平成18年3月期の定時株主総会の終結の時からとなっています。まだかなり先のことです。
ただし、社外監査役の少ない会社では早いうちに準備しておかないと、いきなり過半数の社外監査役を確保しようとすると、総人数が不相当にふくらむことになります。