発信者情報開示請求事件(知財高裁令和4年2月21日判決)~「漫画村事件」
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<ポイント>
◆特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(いわゆるプロバイダ責任制限法)第4条に基づく発信者情報開示請求
◆「開示を受けるべき正当な理由」に関する裁判例

1 従来のラジオやテレビのようと異なり、インターネットの発達により個人でも簡単に世界中の誰でも閲覧可能な状態で情報発信をすることができるようになりました。しかし、これに伴い名誉棄損や著作権侵害の問題が生じました。しかも、匿名で情報発信できることから発信者を特定することすら困難なこともあり、法的に損害賠償請求や差し止請求の相手方を誰にしたら良いのかも分からないことがあります。
このような場合に、請求の相手方を特定するために、サイト管理者やサーバー管理者に対して発信者情報の開示を求めます。

2 本件の事案の概要は次のとおりです。
ウェブサイトに著作物(漫画)の画像をアップロードするとの形態で著作権を侵害する投稿がされたことから、著作権者が、当該ウェブサイトについてコンテンツデリバリーネットワークサービスを提供していた外国法人であるクラウドフレア インク社(以下「クラウドフレア社」。アメリカ合衆国カリフォルニア州の法律に準拠された会社)に対して発信者情報の開示請求をした事案です。クラウドフレア社は、東京にもデータセンターを設けサーバーを設置し、また日本語でのウェブサイトを開設するなどしていました。

3 原審の判断(東京地裁令和2年1月22日判決)
原審は、クラウドフレア社を「日本において事業を行う者」(民事訴訟法3条の3第5号)に該当するとして国際裁判管轄を認めたものの、問題となる対象ウェブサイト(以下「本件サイト」)上への著作物の画像のアップロード(以下「本件各投稿」)について、こうした投稿に係る発信者の使用するアカウント情報のうち1)氏名又は名称、2)住所、3)電子メールアドレス、4)IPアドレスおよび5)タイムスタンプについて、「開示を受けるべき正当な理由」があるとは認められないとして開示請求を全部棄却しました。
その理由としてa)著作権者は、クラウドフレア社から本件各投稿に係る電子メールアドレス、平成30年7月25日までのIPアドレス、タイムスタンプ(以下「本件ログ」)の任意開示を受けていたこと、b)著作権者の代理人は、新聞社等に対し、これらのデータに基づき、本件サイトの運営者とみられる男性を特定し、その男性が新宿区の高級タワーマンションにいたことが確認できたと語り、c)対象サイトの運営に関わった3名の者は、いずれも逮捕・起訴され、その氏名は既に判明している上、そのうち公判中の2名については刑事施設に収容されているのであるから、著作権者は、本件発信者情報の氏名又は名称及び住所を入手するまでもなく、本件発信者を既に特定し、これらの者に対して損害賠償請求をすることが可能な状態にあるということを挙げました。

4 知財高裁判決の内容
知財高裁は原判決を一部変更して、上記1)氏名又は名称、2)住所については、本件ログの開示によって発信者が特定されたとは認められない(本件ログからは、専門的な捜査機関によっても発信者の特定に至らなかったことがうかがわれる)として、氏名又は名称及び住所の「開示を受けるべき正当な理由」が著作権者にあるとして、それらの限度で著作権者の開示請求を認容しました。
ただし、上記3)電子メールアドレス、4)IPアドレスおよび5)タイムスタンプは本件ログであると認められるとして既にクラウドフレア社から開示されているから、重ねて開示を請求する正当な理由があるとは言えないとされています。

5 本件は、訴訟提起から4年越しで認められた判決ということです。事前に情報保全のための手続をするなど、多くの工夫もされています。
インターネット通信に関する技術面の理解も必要であるため、損害賠償請求が可能といえるほどに発信者を特定できているか、という点について地裁と知財高裁で判断が分かれた事案として紹介しました。