物価高を理由に代金額を変更できるか
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原油、鉄鋼、穀物など物価高に関する報道が多くなされています。企業は原材料などの仕入価格を考慮して顧客との取引金額を設定しますから、物価高により当初予想より仕入価格が高くなると、顧客との取引金額が一定であるかぎりは儲けが目減りすることになります。
大規模な工事請負のように契約の実行に長期間を要する取引で特にシビアな問題になります。例えば、工事完成までに2年を要する工事請負では、契約締結後2年間の物価変動を予想して代金額を設定しておかなくてならず、物価が大きく変動している時期にはこの予想が困難です。
では、工事を請け負った企業は、契約後に原材料の仕入価格が予想外に値上がりしたことを理由に、発注者に代金額アップを要求できるでしょうか。

いったん契約で定めた代金額は変更できないのが原則です。ただし、契約締結後の急激な経済情勢の変動を理由に、例外的に契約金額を変更できる場合がありうるとされており、法律用語で「事情変更の原則」といわれています。このルールが適用されるための要件は次の4つとされます。
要件1:契約当時に前提とされた事情に変更が生じたこと
要件2:事情変更が予想不可能なものであること
要件3:当事者の落ち度による事情変更でないこと
要件4:当初の契約内容を維持することが著しく不当であること
民間工事についての標準的な請負契約約款においても、物価変動を理由とする代金額変更を定める条項(インフレ条項、スライド条項)がおかれています。これらの条項も「事情変更の原則」に基づくもので、上記のような要件がそろってはじめて適用されるものとされています。
公共工事の標準約款でも、一部の要件が具体的な数値として示されている点が異なるものの、代金額変更という意味で類似のルールが規定されています。
法律の世界では、「~の原則」といいながらも実際には例外的にしか適用されないルールが数多くあります。「事情変更の原則」もそのひとつです。

ただ、最近、第2次オイルショック時の1980年以来28年ぶりに、国土交通省が鉄鋼価格上昇などを理由に公共工事の代金額変更を認める方針を固めたとの報道がなされています。こうした国土交通省の方針が、地方自治体の公共工事のほかに民間工事にも波及して影響するのではないか、という指摘もあるようです。

オイルショックの際に、公共工事のほか民間工事についても当事者間の協議で工事代金額を変更した事例が報告されています。ただ、こうした事例が全体の契約件数で占める割合は少なく、代金上乗せができても数パーセント程度にとどまっていたようです。
当事者間の協議がまとまらず裁判になったケースではどうかというと、判決が公表されている範囲では、オイルショック時の物価上昇を理由に裁判所が「事情変更の原則」により代金額変更を認めた事例は見当たらないようです。
物価高が現に進行しているなかで契約が締結されている場合、その後のさらなる物価上昇も予測不可能とまではいえない(要件2が欠ける)などとして、代金額の変更が否定されています。
こうした裁判例の傾向を前提とするかぎりでは、近時の鉄鋼価格にみるような急激な物価上昇のなかで締結された契約について、契約後の物価上昇を理由に代金額の変更を要求することは難しそうです。ただ、裁判官は事実関係が異なる過去の裁判例に拘束されるわけではなく社会情勢の違いも考慮して法律判断をするはずです。例えば、オイルショックの際よりも多くのケースで当事者間の協議による代金額変更がなされるようになれば、そのような状況を考慮して裁判官の判断も異なってくるのかも知れません。