消費税転嫁対策特別措置法違反の事例

<ポイント>
◆勧告公表されたのは、買いたたき事例ばかり9件
◆貸室の提供などサービスの買いたたき事例が目立つ
◆措置法が浸透し、効果を上げているのかは今後も注視

今年4月1日の消費増税に併せて、消費税転嫁対策特別措置法が施行されています。
商品やサービスを供給する業者が、大規模小売事業者など取引先に対して、消費税を円滑に転嫁できるようにすることを確保し、転嫁を拒むことを禁止する法律です。
措置法は、売上高100億円以上などの基準を満たす大規模小売事業者(そうでなくても、個人事業者や、資本金等の額が3億円以下の事業者等から供給を受ける場合なら、どんな法人事業者も)が代金の減額や、買いたたきによって、消費税の転嫁を拒むことなどを禁止しています。
公正取引委員会は違反行為と判断した場合、対象となる事業者に対して必要な措置を勧告し、その旨、社名も含めて公表することになります。
なお、公正取引委員会は中小企業庁と合同して書面調査を実施しています。その調査の結果、公正取引委員会や中小企業庁(長官)が事業者に対して必要な助言指導を行うことがあります。
さらに転嫁の拒否が多数の供給事業者に対して行われていたり、供給事業者が受ける不利益の程度が大きかったり、反復して行われる蓋然性が高かったりする場合は、勧告・公表の対象となっていると考えられます。
公正取引委員会が勧告公表した例が既に9件ありますので、これらの事例をご紹介します。いずれも、代金の決定に際して通常支払われるべき価格より低い価格で決めることで、消費税の転嫁を拒む「買いたたき」事例ばかりです。

措置法施行後、最初に勧告公表されたのは駅ナカの店舗「エキュート」などを展開する株式会社JR東日本ステーションリテイリングによる買いたたきでした。
同社は一般消費者が日常使用する商品の売上高が100億円以上の大規模小売事業者です。したがって、納入業者の規模の如何を問わず、措置法の対象となります。
同社は元々納入業者からの仕入価格について、自社の販売価格に、納入業者との契約で定めた仕入率を掛けることによって決めていました。
そして消費増税後の売上高減少を防ぐため、今年4月1日から14日までの間、既存商品の販売価格を3%以上引き下げる「生活応援バザール」なる企画を実施しました。
税別の販売価格を3%以上引き下げて、これに消費税8%を付加して消費者に販売するので、結果として税込価格は据え置きだったようです。
自社の負担において税込み価格を据え置くのは違法ではありません。しかし、同社は、納入業者に対し、この企画への参加を要請しました。
同社が消費者に販売する税別の販売価格が3%以上下げられ、かつ、予め決まっていた仕入れ率が適用されれば、必然的に仕入価格=納入価格が従来よりも下げられることになります。
同社はこのような方法で消費税の転嫁を拒んでいたことになります。
公正取引員会は、企画期間中に転嫁を拒んでいた差額を納入業者に支払うことや、社内の研修実施など社内の体制整備のための必要な措置を行うことを同社に勧告しました。

「メガネの三城」で有名な株式会社三城も、メガネなどの売上高が100億円以上の大規模小売業者です。
同社が買いたたきを行ったのは、店舗の賃料についてでした。消費税込で賃料を定めている127社(または名)の賃貸人たる事業者に対し、4月1日以後の賃料について、消費増税分を上乗せせず、据え置くことを決定し、その旨通知しました。このような行為を公正取引委員会は違反行為と認定し、4月1日以後に遡って消費増税分を上乗せした賃料に引き上げ、引き上げ分を賃貸人に支払うことなどを同社に勧告しました。措置法にも規定があるように、商品の納入ばかりでなく、サービス(ここでは貸室の提供)も買いたたきの対象となるということです。

市立病院を運営する山形市が、同病院で納入を受ける医療材料の買いたたきを行ったとのことで勧告を受けた例もあります。同市は、平成26年度上期(4月~9月)の納入価格について、平成25年度下期までの納入価格から3%の半分である1.5%を引き下げるなどすることで、納入業者に対する消費税の転嫁を拒んだということです。山形市のような地方公共団体も、病院事業という事業を行う限り、措置法の対象たる「特定事業者」たりうることを示しています。ただ、山形市は大規模小売事業者ではありませんので、措置法の適用を受けるのは、個人の事業者や資本金の額などが3億円以下である事業者などから納入を受けるときのみということになります。

公安委員会の指定を受けて自転車の防犯登録事業を行う一般社団法人東京都自転車商防犯協力会(兵庫県でも同種事例)が、自転車所有者から支払われる防犯登録料からシール代を引いた、防犯登録料の手数料について、本来は消費増税分も上乗せして支払われるべきところ、支払われなかったという例もあります(兵庫県における事例では、据え置きではなくさらなる引き下げ)。特殊な事例ですが、これも商品の代金ではなく、防犯登録というサービスについての買いたたきが問題となっています。

フィットネスクラブを運営する株式会社ルネサンスの事例では、同社が委託契約を結んでいるインストラクターに対する委託料について、4月1日以降、消費増税分を上乗せしなかったり、これに満たない金額しか上乗せしなかったりして、公正取引委員会から買いたたきと判断されました。なお、勧告公表前に、公正取引委員会などによる指導があったためか、7月中旬までに、増税分を上乗せして支払うことをインストラクターと合意し、既に支払っていたということです。
逆にいうと、それでも勧告公表されるにいたった事例ともいえます。

病院や診療所に対して健康診断を委託する産業機械保険組合が、4月1日以降の健康診断の委託料金に関し、消費増税分を上乗せしないことを通知したという例でも勧告公表を受けています。ここでも勧告前である7月までに増税分を病院等に既に支払っています。

また牛丼の吉野家を運営する株式会社吉野家ホールディングスの子会社3社について、店舗の賃料について、6月分以降の賃料を増税前の賃料とすることを要請し、既に増税分を支払った4月分、5月分については6月分からその増税分を差し引くなどした行為についても、勧告公表がなされています。これら3社も勧告公表前に増税分を支払っています。この件では、公正取引委員会は、吉野家ホールディンクスに対して、企業グループ内で研修を行うなどコンプライアンス体制の整備のため必要な措置をとることを要請しています。

最近では、パチンコスロットの販売を行う山佐産業株式会社が販売代理店に対して支払う委託手数料について増税分の上乗せをしなかったという勧告例がありました。これも勧告前に増税分が支払われています。

以上がこれまで公正取引委員会によって勧告公表された違反事例の全てです。
このように見てくると、商品の仕入れ価格についての買いたたき違反事例として勧告公表されたのは、JR東日本ステーションリテイリングと山形市の例のみとなります。このうち大規模小売業者に対してなされたのは前者のみです。
租税措置法が浸透しているとみるべきか、今後の公表や動きにも注視していきたいところです。