海遊館セクハラ訴訟
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<ポイント>
◆被害者の明白な拒否がないことは考慮されない
◆個別の行為に対する事前の警告等は不要
◆セクハラに対する処分は厳格化する傾向

今回はセクハラ発言をめぐる懲戒処分の有効性が争われた事案につき、最高裁判決を紹介します。
会社が従業員の男性らに対し、部下の女性にセクハラ発言を繰り返したことを理由に出勤停止の懲戒処分及び懲戒処分を受けたことを理由に人事上の降格を行ったことが有効かどうかについて、平成27年2月26日、最高裁判決が言い渡されました。

事案は、大阪の有名な水族館の運営を行っている会社において、課長代理の職にある男性2名が、女性従業員に対し、セクハラ発言を繰り返したことを理由に、それぞれ出勤停止の懲戒処分をされ、かつ、会社の資格等級制度規程に基づき、懲戒処分を受けたことを理由にそれぞれ1等級降格されたことについて、これらの会社の行為は懲戒権の濫用及び人事権の濫用であるとして、会社の処分等が無効であることの確認を求めて訴訟を提起したものです。

1審の大阪地裁は、会社の処分は妥当であるとして、男性らの請求を棄却しました。
しかし、2審の大阪高裁では、男性らの請求を認めて、出勤停止処分の無効及びそれに伴う降格の無効を認めました。
大阪高裁がこのような判断をした理由としては、男性らが部下の女性から明確な拒否の姿勢を示されておらず、自分の言動が許されていると誤信していたことや、懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する会社の具体的な方針を認識する機会がなく、セクハラ発言について会社から事前に警告や注意等を受けていなかったことなどを考慮すると、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは酷にすぎるというべきであり、出勤停止処分は、その対象となるセクハラ行為の性質、態様等に照らして重きにしっし、社会通念上相当とは認められず、権利の濫用である、というものです。

しかし、最高裁は、この大阪高裁の上記の判断を真っ向から否定しています。
まず、セクハラ行為の内容について、男性Aは、チームの責任者でありながら、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器・性欲等についてことさらに具体的な話をするなど、極めて露骨で卑猥な発言を繰り返し、男性Bは、上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていたにもかかわらず、女性従業員の年齢や未婚であることなどをことさらに取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で侮辱しまたは困惑させる発言を繰り返したと認定しました。
そしてこれらの一連の発言は、女性従業員に対し強い不快感、嫌悪感、屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものであると判断しました。
しかも、会社は、セクハラ禁止文書を作成し、セクハラ研修への毎年の参加を従業員に義務付けるなど、セクハラ防止のための種々の取り組みを行っていたことも重視しました。
また、女性従業員が明白な拒否の姿勢を示していなかったとの点については、被害者が職場の人間関係の悪化等を懸念して、抗議や申告を控えたりすることが少なくないとして、この事情を男性らの有利にしんしゃくすることは相当でないとしました。
また、男性らが事前に会社の警告や注意等を受けていなかったとの点については、会社の取り組みや、セクハラ行為が1年余にわたって継続していたことや、セクハラ行為の多くが第三者のいない状況で行われていたことから、この点も男性らに有利にしんしゃくできないとしました。
そして、会社の行った出勤停止という懲戒処分は社会的相当性を欠くものとはいえない、として懲戒処分及びそれに伴う降格処分も有効であると判断しました。

大阪高裁が会社の処分を無効とした真の理由は、セクハラ行為があくまで「発言」であり、わいせつな行為をしたわけではないのに、いきなり出勤停止の処分を行うのは、重すぎると判断したのだと思います。
また、一連の発言は、社会人としての発言としては望ましくはないものの相手が嫌がっていることに気づいていないのであれば、いきなり出勤停止という処分まではすることは発言者に酷であるとの判断をしたのでしょう。

しかし、実力行使のセクハラが許されずその情状が悪いのは当然ですが、セクハラ発言が繰り返されることにより職場の環境が著しく悪化することを考えると言葉によるセクハラであるからといってその悪質性や影響力を軽視するのは妥当ではないでしょう。
また、客観的にみて相手が嫌がることが明らかである無神経かつ配慮のない発言については、相手が嫌がっていると思わなかったという言い訳を許すべきではありません。そのような言い訳を許せば相手の感情に無神経な者が有利ということになってしまいかねません。
この点で、最高裁の判断は妥当なものであると思います。
 
このようなセクハラのケースでは、会社としては、セクハラの再発を防ぎ、被害者の被害感情を慰謝するという点からは重い処分をしたいところです。しかし、その一方で、重い処分をした場合、本件の事案のように処分をされた者から裁判を提起され敗訴するなどのリスクがあり、裁判官でもないのに、重すぎず軽すぎないちょうどよい処分をしなければならない立場にあり、判断が非常に悩ましいところです。この会社の判断の難しさは、このケースにおいても1審と2審とで判断が分かれたことにも表れています。
しかし、今回の最高裁判決が出て、言葉によるセクハラであっても重い処分が可能であることが明確化されたことで、会社にとってもセクハラ発言に対してはこれまでより積極的に処分する方向になると思われます。