民泊サービスに関する法規制の現状と今後
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<ポイント>
◆大田区では特区を活用した民泊に関する条例が施行
◆有識者会議では旅館業法の「簡易宿所」としての規制が検討されている
◆特区・条例、政令の改正をウオッチしつつの対応が必要

インターネットを通じ宿泊者を募集する、一般住宅、別荘等を活用した「民泊」サービスに関する規制緩和の動きについて、昨年12月のメールマガジンで解説しました。
それ以降の動きとして、大阪市議会でも国家戦略特別区域(特区)を利用した民泊に関する条例が可決し、既に条例が制定されていた大田区では、2月29日、条例が施行され、2件の申請が受け付けられたとのことです。
他方、政府(厚生労働省と国土交通省)の有識者会議「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」で議論が継続しており、1月25日の第5回会議では、解禁に向けた対策案がまとめられたと報道されています。
日本経済新聞の1月26日付け朝刊によれば、「政令の改正によって4月をめどに条件を緩和して民泊を解禁する」とされています。

大田区のような特区を活用する場合、旅館業法の特例を定める国家戦略特別区域法13条と政令の範囲内でのみ民泊が認められます。
したがって、この場合、施設使用期間は7日以上でなければならないとされています。
そして、条例が定められる範囲を定める国家戦略特別区域法施行令12条によれば、

居室について(三号)、
イ 一居室の床面積は25平方メートル以上であること(例外有)。
ロ 出入口及び窓は、鍵をかけることができるものであること。
ハ 出入口及び窓を除き、居室と他の居室、廊下等との境は、壁造りであること。
ニ 適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること。
ホ 台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること。
ヘ 寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理のために必要な器具又は設備及び清掃のために必要な器具を有すること。
との要件、ほかにも、
四  施設の使用の開始時に清潔な居室を提供すること。
五 施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、緊急時における外国語を用いた情報提供その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供すること。
六 当該事業の一部が旅館業法第2条第1項 に規定する旅館業に該当するものであること。
との認定の要件が定められています。

旅館業法の適用を除外しながらも六号が設けられているのは、旅館業法が定める「簡易宿所」営業に該当する部分が一部分でもなければいけないといっているようです。

これに対して、前記有識者会議で検討されているのは、旅館業法を適用しつつ、「簡易宿所」の要件を定める政令の基準を緩和して、民泊を規制するものです。
簡易宿所とは客室を多数人で共用する宿泊施設であり、ユースホステル、カプセルホテルなどがこれにあたります。

ちなみに、簡易宿所営業の施設の構造設備の現行の基準は次のとおりです。
一  客室の延床面積は、33平方メートル以上であること。
二  階層式寝台を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね1メートル以上であること。
三  適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
四  当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること。
五  宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。
六  適当な数の便所を有すること。
七  その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。

「構造設備の基準」には、客室、浴室、循環ろ過装置、洗面設備、便所、調理室等について、それぞれ細かい基準が設けられています。
ただ、現状でも、マンション等の共同住宅を使用して簡易宿所営業を行うことも想定されているので、簡易宿所の基準に修正を加えることが、民泊に適用すべき規制として使いやすいのだと思います。
簡易宿所に施設使用の最低日数の要件はありませんので、簡易宿所と認められる限り、最低日数の規制はないということになります。
この点が、特区を活用する条例の場合とは大きな違いとなります。この点では、実際的には旅館業法上の「簡易宿所」として認められる方がより緩和的といえます。

前記有識者会議では、1月25日の第5回会議の資料が公表されており、これによれば、「早急に取り組むべき課題」として、「簡易宿所の枠組みを活用して、旅館業法の許可取得の促進を図るべきである。」とされています。あくまで旅館業法の範囲内での修正で対応するという方針です。
現行の客室面積の基準(延べ床面積33平方メートル)を見直す方向で検討している、具体的には、定員1人当たりの面積を設定の上、収容定員に応じた面積基準として、33平方メートル未満の物件でもその規模に応じて活用できるようにすべきではないか、という方向が示されています。
また、家主不在のケースでは、宿泊者の本人確認、緊急時の対応体制など一定の管理体制の確保を求めています。他方で、そうした管理体制があれば、「玄関帳場」の設置を求めている通知の運用を見直すべきではないかととされています。

ただ、これらの「早急に取り組むべき」対応で、現状では違法状態とされる民泊の全てに規制がかけられるかは疑問です。

さらなる規制緩和については、有識者会議で「中期的に検討すべき課題─現行制度の枠組みを超えた検討が必要なこと」と位置付けられています。
家主居住で自宅の一部を貸し出すようなホームステイタイプの民泊については、旅館業法の許可の枠組みを適用する必要性、妥当性について検討が必要、とされています。
ただ、これも、ホテル代わりに使われるようなケースを想定したものとは言えません。
用途地域規制の問題もあります。つまり、ホテル、旅館は住居専用地域では、一切営業できないのに、民泊についてはできるように緩和すると、良好な住環境を求めて住んでいる人に大きな影響を及ぼすことになり、慎重な検討が必要、という意見が有識者会議でも出されています。

現状に法が追い付いていないという見方もありますが、公衆衛生、安全確保のうえで旅館業法、建築基準法、消防法などとの兼ね合いがあり、また周辺の住民とのトラブルをどう回避するか、さらにはテロの温床になってはいけないという重要な問題もあります。

有識者会議の議論の過程を見ると、様々な観点から意見が述べられ、議論が集約されているという印象は受けません。

江東区のとある分譲マンションでは、マンション管理規約を改正して、民泊としての利用を禁止したケースもあるようです。

法的な観点から、特区・条例あるいは旅館業法施行令の改正をウオッチしつつの対応、準備が必要となってきます。