民泊に関する最終報告書の枠組み
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<ポイント>
◆政府の有識者会議が最終報告書で民泊の新しい枠組みを公表
◆家主居住型と家主不在型に分け、後者には「管理者」への委託を義務付け
◆対象となる「一定の要件」は年間「半年未満の適切な日数」で設定

住宅(戸建住宅、共同住宅等)を活用して提供する宿泊サービス、すなわち「民泊サービス」に関して、政府(厚生労働省と国土交通省)の有識者会議「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」が6月20日、最終報告書をまとめて公表しました。
これにさきがけ、その骨子となる部分は、検討会の検討状況を踏まえて「規制改革実施計画」として6月2日付で閣議決定され、「早急に法整備に取り組む」とされています。
最終報告書は、一定の枠組みで提供する民泊サービスを、「既存の旅館業法とは別の法制度として整備することが適当」としています。
これを受けた新法について、政府は来年(2017年)の通常国会に提出する方針だったようですが、「官邸側が関係省庁に今秋の臨時国会への前倒しを指示した」と報道されています(6月26日付け日本経済新聞朝刊)。
同国会で成立すれば、年内にも規制が緩和されると日経新聞は報じています。

このメールマガジンで検討会の検討状況をウオッチしてきましたが、最終報告書の内容が新法の法案に反映されるでしょうから、報告書における民泊の枠組みを整理しておきます。

報告書は「家主居住型(ホームステイ)」と「家主不在型」とを分けて枠組みを設けています。
家主居住型とは「住宅提供者が住宅内に居住しながら(原則として住民票があること)、当該住宅の一部を利用者に利用させるもの」をいいます。この場合、住居内に居住する住宅提供者による管理が可能です。
他方、家主不在型の場合は、家主居住型に比べ、騒音、ゴミ出し等による近隣トラブルや施設悪用等の危険性が高まり、また、近隣住民からの苦情の申入れ先も不明確であるといえます。
そこで、家主不在型の場合、住宅提供者が「管理者」に管理を委託することを必要としています。管理者への委託を義務付けることで適正な管理や安全面・衛生面を確保することとしています。
この点が規制の仕方の大きな違いです。したがって、家主居住型に適用される規制は、家主不在型にも同様に適用され、家主不在型に関しては、管理者への委託義務付けに関する規制が上乗せされているといえます。
なお、出張やバカンスによる住宅提供者の不在期間中の住宅の貸出しも家主不在型と位置付けられています。

そこで、まず家主居住型、家主不在型の両方に適用される規制について、みておきます。
住宅提供者は、住宅を提供して民泊を実施するに当たり行政庁への届出が必要です。
そして、住宅提供者には次のことが求められます。
(1)利用者名簿の作成・備付け(本人確認が必要とされ、外国人利用者の場合はパスポートの写しの保存等を含む)。
(2)最低限の衛生管理措置(その内容は現段階では具体的ではありません)
(3)簡易宿所営業並みの宿泊者1人当たりの面積基準(3.3平方メートル)の遵守
(4)利用者に対する注意事項の説明
(5)住宅の見やすい場所への標識掲示
(6)苦情への対応
(7)当該住戸について法令・契約・管理規約違反の不存在の確認等
住宅提供者にこれらのことを求めて、安全面・衛生面を確保し、匿名性を排除するとしています。

また、そして民泊の適正を担保するための措置として、次の事項が検討されるべきとしています。
(ア)法令違反が疑われる場合や感染症の発生時等、必要と認められる場合の行政庁による報告徴収・立入検査
(イ)違法な民泊を提供した場合の業務の停止命令等の処分
(ウ)無届の民泊実施、上記の義務違反など法令違反に対する罰則等
住宅提供者は(ア)はもとより、行政当局の求めに応じて必要な情報提供を行うべきであるとしています。
「アメ」の部分では、現行の旅館業法にあるような宿泊拒否制限規定は設けないとしています。

そして、家主不在型においては、これら規制に加えて、前述のとおり、管理者への管理委託を義務付けています。
管理者は行政庁への「登録」が必要です。
管理者は住宅提供者からの委託を受けて、上記(1)~(7)を行うことが求められます。
管理者にも上記(ア)~(ウ)のペナルティ等が検討されるほか、登録取消処分等が検討されます。

報告書は、民泊に係る仲介事業者への規制についても言及しています。
すなわち、行政庁への登録を行うこととし、取引条件の説明義務や新たな枠組みに基づく民泊であることをサイト上に表示する義務を課すべきである、としています。
また、行政庁への報告徴収・立入検査、違法な民泊のサイトからの削除命令、違法な民泊であることを知りながらサイト掲載している場合の業務停止命令、登録取消等の処分、法令違反に対する罰則等を設けるべきであるとしています。
行政当局の求めに応じ必要な情報提供を行うべきなのは、住宅提供者、管理者と同様です。
仲介事業者に特徴的なのは、外国法人に対する取締りの実効性確保のため(どうして外国法人に限っているのか理解できていませんが)、法令違反行為を行った者の名称や違反行為の内容等を公表できるようにすることを検討すべきであるとしています。

以上のような規制の枠組みを前提に、報告書でも具体的な決着をみていないのが、新たな制度枠組みが適用される「一定の要件」です。報告書は「一定の要件」を超えて実施される場合、旅館業法に基づく営業許可が必要としています。
私の前回の記事でも「一定の要件」についてコンセンサスが得られていないとしておりましたが、報告書でも「年間提供日数上限による制限を設けることを基本として、半年未満(180日以下)の範囲内で適切な日数を設定する」という限度にとどまっています。
冒頭で述べたように、報告書は民泊を「住宅を活用して」宿泊サービスを提供するものと定義していることから、当該施設が「住宅」と扱い得る(「住宅」という枠組みをはみ出さないような)合理的な範囲でなければならない、という建前をとっているからです(よって「住宅」である以上、住居専用地域でも実施可能という論理ともなります。条例による制限がない限りで。)。
つまり、その「住宅と扱い得る」範囲をはみ出してしまうと、それは既存の旅館・ホテルの範疇になり、旅館業法の適用範囲になるというわけです。
これに対しては、30泊(60日)以内という、おそらくは旅館ホテル業の組合団体出身の有識者からの意見がある一方で、「賃貸物件の場合、営業日数が1年間のうち半年だとビジネスとして成り立たない」という、おそらくは賃貸住宅経営者団体出身の有識者からの意見が出ています。
つまり、報告書で上限(の上限?)とされている半年という基準は、どちらの業界からも歓迎されない基準ともいえます。政府としては、ともかく、いったん法律を施行したうえで、「その状況に応じた見直しを必要に応じて行う」という態度かもしれません。
民泊に関する新しい枠組みが施行されたとして、仮に年間営業日数が「半年」が上限になるとすれば、住宅提供者として民泊ビジネスを推進したい側からいえば、旨味が感じられないので参入に消極的になるかもしれません。そうなると、新しい制度も、現存の空き物件について全く活用されないよりは、年間半年の限度で活用される方が経済的には「まし」で、それによって急増する外国人観光客の受け皿を少しでも用意しよう、という制度として始まりそうです。
むしろ、民泊に一定の枠組みを設けて適法化することで、これに該当しない違法な民泊を取り締まることがウラの目的として機能するのかもしれません。
新しい法案について「一定の要件」についてどのような決着がみられるか、国会審議を通じてどのような世論が喚起されるか、新しい制度について、その使い勝手をどう考えるか、これからもウオッチして、検討していきたいと考えています。