民事訴訟改正によるインターネットを利用した民事裁判について
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<ポイント>
◆訴えの提起がインターネットで可能になります
◆裁判所に行かない訴訟が進化し、口頭弁論だけでなく、証人尋問もウェブで可能になるかも

改正民事訴訟法が令和4年5月18日に成立、同月25日に公布されました。そのうち、裁判のIT化に関する改正について取り上げて、裁判の流れにそって解説したいと思います。

訴えを提起するには訴状を裁判所に提出しなければならないので書面で行うことが原則ですが、今回の改正でオンラインの方法により行えるようになりますので、その概略を述べます。
改正民訴法132条の10第1項は「電子情報処理組織を使用して当該書面等に記載すべき事項をファイルに記録する方法」、すなわち裁判所が運用するシステム上で、インターネットを通じてファイルをアップロードする方法により訴えを提起できるとしており、原告及びその代理人のコンピュータから直接裁判所に申立てができるようになります。
さらに、委任による訴訟代理人となる弁護士、司法書士等は、原則としてオンラインにより訴えの提起をしなければならなくなります。
紛争の当事者が自ら訴えを提起する場合(いわゆる本人訴訟)は書面で行うことができますが、裁判所は原則として上記の裁判所が運用するシステム上で「ファイルに記録」しなければなりません。
訴えのオンライン提起にともない、被告に対する訴状の送達も被告及びその代理人がインターネットを通じてアクセスする方法(「システム送達」というようですので本稿でもそれに倣います)が可能となり、オンライン提起の義務がある弁護士、司法書士等はシステム送達の届出の義務があります。上記の本人訴訟における書面による提起の場合にもシステム送達が可能となります。
システム送達は、送達を受けるべき者に対し、送達に係る事項の閲覧または記録(たとえばダウンロード)できる措置をとって、その旨の通知を行い、その者が閲覧または記録した時点で送達の効力が生じます。また、上記通知の日から1週間が経過した時も同様です。
改正後も書面送達は残りますので、システム送達は、事前の交渉が決裂した場合など双方に弁護士が代理人として就任している場合が想定されると思います(私見)。
これらの詳細は、今後、最高裁判所規則で定められることになっています。なお、オンラインでの申立ては訴えにかぎらず一般に裁判所に対する申立てについて適用されることになります。

裁判が開始すると口頭弁論(公開の法廷に裁判官、当事者双方(または代理人)が一堂に会して行われる)が開かれますが、今回の改正によりウェブ会議による口頭弁論が可能になります。改正民事訴訟法87条の2は「裁判所は、相当と認めるときは・・・裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手方の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、口頭弁論の期日における手続きを行うことができる」としています。
これまでも「弁論準備手続」や「書面による準備手続」(いずれも非公開である等、口頭弁論より緩やかな手続きですが詳細は割愛します)を利用して当事者(または代理人)が裁判所に行くことのない手続きを行っていました。
ただ、「弁論準備手続」は電話会議であり、当事者が遠隔地に居住していることと当事者の一方が裁判所に出頭していることが必要でした。現状、コロナ禍を契機としてと思われますが、「書面による準備手続」における「当事者双方との協議」としてウェブ会議が利用されるようになり、双方が裁判所に行くことのない運用が行われることも多くなりました。
今回の改正により上記の運用が定着するものと思われます。また、上記弁論準備手続きにおける電話会議でも遠隔地居住要件がなくなり、かつ当事者双方とも出頭不要となります。

証拠調べのうち、証人尋問、当事者尋問については、例外的に証人等が最寄りの裁判所に出頭した上で、テレビ会議で行うことは改正前にも認められていました。
今回の改正で、テレビ会議による証人尋問等について、たとえば「遠隔の地に居住する」者とされていたのが「住所、年齢又は心身の状態その他の事情により証人が受訴裁判所に出頭することが困難である」場合になり、また当事者に異議がない場合が加えられて、テレビ会議で行う証人尋問等の要件が緩和されたといえると思います(私見)。なお、簡易裁判所においてはこのような制限はなく、裁判所が相当と認めるときは可能となります。
さらに、必ずしも証人等が最寄りの裁判所に出頭する必要はなくなるかもしれません(これについては、今後最高裁判所規則により決められます)。
このように裁判所としてはより柔軟な対応が可能となるものと思われます。ただ、どのような場合、方法で利用するかは今後の課題と思われます。

当事者双方がウェブ参加する方法による口頭弁論期日に関する改正は、公布の日から起算して2年(弁論準備手続きにおける電話会議に関しては1年)を超えない範囲内において、訴状等のオンライン提出・システム送達やテレビ会議での証人尋問等に関する改正は公布の日から起算して4年を超えない範囲内において、政令で定める日から施行されます。