株式報酬型ストック・オプションについて
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<ポイント>
◆役員退職慰労金に代えて株式報酬型ストック・オプションの発行が増加
◆株式報酬型ストック・オプションは実質無償で付与されることが多い
◆取締役に付与する場合は株主総会決議が必要なことがある

以前、有償ストック・オプションの解説をしましたが、今回は「株式報酬型ストック・オプション」と呼ばれているストック・オプションについて説明します。
有償ストック・オプションの解説記事と同様に、会社の業績を向上させ株価を上昇させることにインセンティブがはたらくことを期待して、役員、従業員(子会社の役員、従業員を含みます。以下同じです)に与えられた新株予約権を「ストック・オプション」と呼ぶこととします。
なお、新株予約権を特に有利な価格で発行する場合(「有利発行」といいます)には株主総会の特別決議が必要です。
しかし、ストック・オプションについては、会社は役員・従業員から業績向上のための努力など一定の価値あるもの(便益・ベネフィット)の提供を期待できるので、通常は有利発行にはあたらないとされています(ただし、子会社の役員、従業員については別論があり、それについては後で述べます)。

株式報酬型ストック・オプションの主な特徴は以下のとおりです。
(1)行使価額(ストック・オプションを行使して株式を取得する際に会社に払い込む1株あたりの金額)が1円であること(そのため「1円ストック・オプション」といわれることもあります)。
(2)ストック・オプションを行使できる期間が20年とか30年の長期にわたること。
(3)役員、従業員の在職期間中は行使できないこと。
(1)のとおり、株式報酬型ストック・オプションは、付与を受けた者は権利行使時の株価とほぼ同じ利益を得られるため、株価が大幅に下がっても株価向上へのインセンティブを持ち続けることが期待できます。
また、(2)と(3)からわかるように、役員の退職慰労金の廃止に伴って導入されることが多く行われています。

ストック・オプションは、市場で認められた算定方法(ブラック=ショールズ・モデルや二項モデルが有名です)によって適切にその価値を評価できるとされています(この適切に評価された価値を「公正価値」といいます)。
ただし、株式報酬型ストック・オプションの殆どの場合、付与を受けた者が公正価値を実際に会社に支払うことはありません(ストック・オプションを取得する際に会社に払い込む金額を「払込金額」といいます)。
公正価値を支払わないでいい理由としては2つの類型があります。
一つは、ストック・オプション発行の際に支払いを要しないと決める場合です。
もう一つは、公正価値を払込金額と決めながら、それと同額の報酬請求権で相殺することにより、実際の支払いを不要とする場合です(前者を「無償構成」、後者を「相殺構成」と呼ぶことが多いので本稿でもそういいます)。
相殺構成の場合、ストック・オプション発行によって役員、従業員の手取額が下がることになりますので、払込金額(=公正価値)分の報酬を従来の報酬に上乗せすることがよく行われています。

取締役に無償構成でストック・オプションを与える場合、株主総会決議が必要となります。会社法361条1項3号により取締役に非金銭報酬を与える場合にはその具体的内容について株主総会で決議しなければならず、無償構成ではストック・オプションの付与は非金銭報酬を与える場合に該当するからです。
これに対して、相殺構成では、取締役が取得するのは報酬請求権という金銭債権ですので非金銭報酬を与える場合にはあたりません。
ただ、金銭による報酬の場合でも、取締役に与える報酬の上限額を株主総会で決議する必要がありますので、ストック・オプションを付与することによりこの上限額を超える場合には株主総会で上限額を引き上げるか、従来の報酬とは別枠で報酬を与える旨の決議が必要になります。

また、子会社の役員、従業員については、無償構成、相殺構成のいずれの場合でも、有利発行にあたるとして株主総会の特別決議を経ることがよく行われています。
ストック・オプションを発行する親会社としては、子会社の役員、従業員からは直接に便益の提供を受けられないからです。
ただし、広い意味での便益の提供があるものとして特別決議なしに発行する会社もあります。
相殺構成の場合、子会社の役員、従業員については、払込金額を支払う相手は親会社で、報酬請求権の相手は子会社ですので、このままでは相殺できなません。
そのため、報酬請求権を親会社が債務引受け等をした上で相殺するという手法が取られています。

株式報酬型ストック・オプションは、年功序列による退職慰労金を廃して、業績に連動した退職慰労金とする点で有用であり、現在までに相当多数の上場会社が採用していますが、今後も採用が増えるものと思われます。