株式会社の分割
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1 株式会社の分割とは
ソフトウエア最大手マイクロソフトの反トラスト法違反をめぐる訴訟を審理していたワシントン連邦地裁が、6月7日、同社を基本ソフト(OS)と応用ソフトの2部門に分離する会社分割を柱とする是正命令を出したことはご記憶されていると思います。この命令は、会社を二つに分けて、お互いに競い合わせようとするものですが、従来、日本の商法には会社分割という制度はありませんでした。企業は、その業務を分けて別々の法人に行わせようとする場合、新たな会社を設立して、業務を移転する(営業譲渡)必要がありました。ところが、今年の商法改正により、日本の株式会社にも会社分割の制度が取り入れられることになりました。会社分割は、先に述べたマイクロソフトのようなネガティブな目的のためというよりは、企業の経営戦略上有用な手段となりうるものです。また、それだけではなく、営業譲渡に伴う商法上の煩瑣な規定を免れたり、それにより生ずる税金を節約することが可能になります。ただし、会社の資本を充実させる必要から、債務超過部門を分割することは許されません。

2 会社分割の種類
株式会社の分割は、株式会社の合併と反対の働きをする制度です。つまり、株式会社が合併する場合、会社の財産、権利、義務は、個々の権利移転手続きを必要とせずに合併後の会社に移転しますが、分割の場合も同様に、分割する会社から承継する会社に移転します。そして、合併に新設合併(合併しようとする複数の会社が新たに会社を設立する場合)、吸収合併(一方の会社が他方の会社を吸収する場合)とがあるように、分割の場合にも、新設分割を吸収分割とがあります。

3 新設分割
新設分割とは、会社を新しく設立し、新会社に分割する会社の権利義務の一部を承継させる場合です。新設分割が、旧来行われてきた新会社を設立して既存会社から営業を譲り受ける場合と異なるのは、個々の権利の移転が不要であること(ただし、登記等は個別にしなければなりません。)、新会社を設立するための資本金の支払い等が不要であることです。新設した会社は、新設分割により株式を発行し、分割する会社が取得するか(分社型)、分割する会社の株主に割り当てるか(分割型)をします。また、両者の併用も可能です。分割会社の株主総会の分割計画書の承認により分割がなされますが、反対する株主には株式買取請求権が認められています。会社が新設分割したときは、分割した会社については変更の登記、新設した会社については設立の登記をすることになります。

4 吸収分割
吸収分割とは、既存の会社に分割する会社の権利義務の一部を承継させる場合です。吸収分割は、新設分割をして、新設した会社が承継した会社に吸収合併される場合と同様の効果がありますが、同一の手続きの中で一挙に行うことができる点に特徴があります。承継した会社は、吸収分割により株式を発行します。この株式の発行を受ける者については新設分割と同様です。分割会社及び承継会社の株主総会の分割契約書の承認により分割がなされますが、反対する株主には株式買取請求権が認められています。会社が吸収分割したときは、分割した会社、承継した会社ともに変更の登記をすることになります。

5 会社分割の効果
分割計画書に従い、分割会社から新設会社または承継会社に営業権等の無形物を含めた財産が移転することになります。先に述べたとおり個々の財産の移転手続きは不要ですが、登記等の対抗要件については備えておく必要があります。財産の移転については、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産すなわち債務も移転することになります。このために、分割型の会社分割の場合、分割する会社は分割の効果が発生する前に公告及び債権者への個別の通知をしなければなりません。債権者には異議を述べる機会が与えられており、これに従って異議を述べた債権者には、分割する会社が弁済等をすることになります。異議を述べなかった債権者については承認したものとみなされます。ただし、判明している債権者であるにも関わらず個別の通知のなかった債権者については2年間は分割する会社と承継する会社が連帯して弁済する義務を負うことになります。