新規上場の減少とベンチャー企業への影響
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2007年以降、証券取引所に新規上場(IPO)する企業数が減少しています。リーマンショックがあった昨年(2008年)後半以降は特に減少傾向が顕著です。
昨年に新規上場した企業数は49社で、バブル崩壊時1992年の26件に次ぐ低水準となっています。(財団法人ベンチャーエンタープライズセンター調べ)
業種で見れば、ひところのブームは去り、ITやバイオなどハイテク企業の新規上場の減少が目立ちます。

新規上場が減少した原因としては、経済情勢の悪化による投資の冷え込みのほか、上場審査や上場後の規制の厳格化による企業側の負担増などが挙げられています。

投資先企業が上場することが難しくなったことでベンチャーキャピタル(VC)は業績を悪化させています。余力を失ったVCが投資を控えるようになれば、ベンチャー企業の資金調達にも影響することとなります。

VCはベンチャー企業に投資し、投資先のベンチャー企業が成長して企業価値が高くなった段階で売却して利益(キャピタルゲイン)を得ます。近年は自己資金による直接投資よりも他の出資者と一緒にファンドを立ち上げてベンチャー企業に投資する場合が増えていますが、利益を得るための基本構造は変わりません。

日本のVCがキャピタルゲインを得るための手段として投資先のベンチャー企業を上場させることに大きく依存しています。
昨今のように投資先企業がなかなか上場できなくなるとVCは投資を回収できず業績が悪化します。
VC大手の日本アジア投資は業績悪化により金融機関への返済が困難となり、事業再生ADRを利用して金融機関への返済スケジュールの見直しを行っています。他のVCもみな業績を悪化させています。
VCに余力がなくなればベンチャー企業は投資を受けられなくなってしまいます。ひいては起業自体が減少しかねません。

年間の新規上場件数がせいぜい数十件という状況では、これに投資回収を頼ることはきわめて困難です。投資回収のあり方(EXITスキーム)の多様化がベンチャー企業やVCの課題です。
上場しようとする企業は上場審査をパスするために内部統制や情報開示などにつき厳格な体制づくりを要求されます。経営資源が必ずしも豊富でないベンチャー企業にとってこれは大きな負担です。
しかし、たとえばベンチャー企業の将来性に着目した他の企業からM&Aでそのベンチャー企業を傘下におさめたいという申し出があれば、無理に上場せずともベンチャー企業の創業者やVCは株式を売却して投資を回収できます。

EXITスキームの多様化とは別に、VCは新規上場数が減少しても経営を維持するための方策としてファンド運営手数料の重点化を打ち出しています。
VCは他の出資者から集めたお金と自己資金によってファンドを立ち上げます。
投資した自己資金について利益の分配にあずかることができるかどうかはファンドの運用実績次第であり、不安定です。
これに対してVCがファンドの管理運営を行うことによって得る手数料は安定収入となります。これを収益の柱とすれば新規上場件数が減少してもVC自体としては打撃は小さくてすむという考え方です。
VCがファンドに投入する自己資金を減らしていけば、運営手数料主体の収益構造にシフトすることができます。
ただ、投資しても将来の回収がおぼつかないのでは資金が集まらず、そもそもファンドの立上げ自体が困難になります。これでは結局ベンチャー企業への活発な投資は期待できません。
VCがファンド運営手数料を重視していくにせよ、投資先企業を上場させること以外にEXITスキームを考えていくことが必要なように思われます。