投資詐欺事件と被害者救済のための法律構成
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<ポイント>
◆近年の投資詐欺事件について
◆投資詐欺において採りうる法律構成(民事)

1 投資詐欺事件について
投資名目での詐欺事件として巨額なものは、2011年安愚楽牧場事件(約4200億円)、1985年:豊田商事事件(約2000億円)などがあげられます。
近年も、証券取引等監視委員会が、SKY PREMIUM INTERNATIONAL PTE. LTD.(シンガポール共和国、金融商品取引業の登録等はない。以下「スカイ社」という。)らに対して、金融商品取引法違反行為(無登録で、投資一任契約の締結の媒介を業として行うこと)の禁止及び停止を命ずるよう求める申立てを行い、2021年12月8日に、東京地方裁判所より、申立ての内容どおりの命令が下されました。公表内容については以下のサイトをご参照ください。
【SESCサイト】
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2021/2021/20211208-1.html

この公表によると、「複数の海外当局による協力を得て当委員会が調査した結果によれば、顧客からの投資資金について、当社の顧客に対する説明内容とは異なり、足下、CSOB銀行にはGQ社の口座がなく、同銀行のGQ社口座宛に送金代行業者からの送金も行われておらず、FX取引運用されていることの確認はできませんでした。」とされています。申立てを受けたスカイ社らは運用実態について東京地裁で反論する機会が与えられていますが、これを説明できなかったようです。投資名目でお金を預かったが、実際には運用していなかったと考えられます。
東京地裁の命令を受け、福岡弁護士会でも2022年2月にはスカイ社に関し「投資詐欺」と判断して電話相談会が実施し、また、2022年11月には被害者らによって札幌地裁に集団訴訟が提起された等の報道がなされています。その後も、被害者からエージェント(勧誘者)等を被告とした訴訟提起が多くなされているようです。

2 法律構成
スカイ社に限った話ではありませんが、投資詐欺事件等において、民事事件としての対応を考えたとき、契約関係を解消し、あるいは金銭を返還してもらうための法律構成はいくつかあります。事案に応じて採りうる構成は異なってきますが、主に以下のものが考えられます(2023年5月現在)。
(1)契約の不成立  >不当利得
(2)意思無能力(民法3条の2) >不当利得
(3)未成年者取消し(民法5条) >不当利得
(4)成年後見人(民法9条)、保佐人(同法13条)、補助人(同法17条)の取消し >不当利得
(5)公序良俗違反(民法90条)・強行法規違反(民法91条)による無効 >不当利得
(6)錯誤(民法95条)による無効  >不当利得
(7)詐欺・強迫(民法96条)による取消し >不当利得
(8)適合性原則違反(民法709条) >損害賠償
(9)説明義務違反
消費者契約法4条取り消し(不利益事実不告知) >不当利得
民法709条 >損害賠償
金融サービスの提供に関する法律4条・6条 >損害賠償
(10)断定的判断の提供
消費者契約法4条取り消し >不当利得
民法709条 >損害賠償
金融サービスの提供に関する法律5条・6条 >損害賠償
(11)確実性誤認の告知
民法709条 >損害賠償
金融サービスの提供に関する法律5条・6条 >損害賠償
(12)不実告知
消費者契約法4条取消し >不当利得
民法709条 >損害賠償
(13)使用者責任(民法715条) >損害賠償
(14)開示関係(金融商品取引法16条・17条・18条・21条の2) >損害賠償
・発行開示責任(目論見書交付義務違反(同法16条)、目論見書虚偽記載(同法17条)、有価証券届出書虚偽記載(同法18条))
・継続開示責任(有価証券報告書虚偽記載(同法21条の2))
(15)所属金融商品取引業者等の賠償責任(金融商品取引法66条の24) >損害賠償
(16)相場操縦等(金融商品取引法160条) >損害賠償
(17)無登録業者による未公開有価証券の売付け等の無効(金融商品取引法171条の2) >不当利得
(18)クーリング・オフ >不当利得

※以下、日付はクーリング・オフ期間。始期等詳細は条文を参照してください。
ア 特定商取引に関する法律
訪問販売(9条、8日間)、電話勧誘販売(24条、8日間)、連鎖販売契約(40条、20日間)、特定継続的役務提供等契約(48条、8日間)、業務提供誘引販売契約(58条、20日間)
イ クレジット(ローン)契約(割賦販売法35条の3の10、35条の3の11、8日間または20日間)
ウ 保険契約(保険業法309条、8日間)
エ 宅地建物売買契約(宅地建物取引業法37条の2、8日間)
オ ゴルフ会員権契約(ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律12条、8日間)
カ 投資顧問契約(金融商品取引法37条の6、10日間)
キ 預託取引(預託等取引に関する法8条、14日間)
ク 不動産特定共同事業契約(不動産特定共同事業法26条,8日間)

3 最後に
払ってしまった/預けてしまった金銭は、訴訟提起をして確定判決を取得しなければ加害者側が返金することはほぼありません。他方で、加害者側の資産の隠匿、散逸、浪費等によりせっかく判決を取得しても、事実上返金を受けられないこともあります。
弁護士に相談し対応策を検討することをおすすめします。