弁護士法人

【法律事務所に法人格】
法律事務所を法人化するために弁護士法の一部を改正する法律が6月1日の参院本会議で可決成立しました。
個人経営中心の日本の法律事務所に法人格を与えて、米国の法律事務所のように「弁護士法人」として複数の弁護士が分業で仕事にあたる事務所経営を可能にします。
裁判の迅速化を進めるとともに、特許など専門性の高い訴訟にも対応できる体制を整え、個人や企業が弁護士を利用しやすくするのがねらいです。
来年4月1日から施行されます。

【これまでの法律事務所】
これまで日本の法律事務所には法人格が認められていませんでした。
弁護士は基本的人権の擁護、社会正義の実現を使命とし、そのためには各弁護士個人が自由な立場で仕事をすることが要請されます。これまでは、弁護士が会社のような法人の一員となることは、そのような弁護士の性質と相容れないと考えられてきたのです。
ところが、現代日本の社会経済はますます複雑化しています。そのため、権利関係を巡って様々な紛争が生じ、訴訟件数も増加してきました。にもかかわらず、日本の法律事務所は現在約7割が1人が経営する個人経営であり、1人の弁護士が抱え込む訴訟件数が多過ぎるといえます。裁判の期日は弁護士が裁判所に出頭できる日を考慮して裁判官が決めます。ところが、原告被告の弁護士がお互い日が会わなければ、次回期日が2か月、3か月先になることも有りうるのです。そのために裁判が長期化します。
また、現代の法的紛争は極めて多様化してきて、1人の弁護士がすべての分野に精通して事件処理にあたることが実際上難しくなってきています。つまり、会社関係の事件、特許事件、外国企業との事件、破産事件、離婚事件など全ての分野に渡って、新しい法律、判例、理論、実務を全てフォローして仕事に携わるのは至難の業とも言えるようになりつつあるのです。

【弁護士法人の特徴】
このような問題を解消するための一つの方策として、法律事務所に法人化が認められました。
仕事の依頼は弁護士個人ではなく、法人としての事務所が引き受け、その仕事は各弁護士に割り振られます。
また、弁護士事務所の支店(従たる事務所)の開設も認められています。

【弁護士法人に期待されること】
このように弁護士法人は引き受けた仕事を分業することができます。したがって、これまでより裁判期日も決めやすくなるので、迅速な裁判の実現が期待されます。
また、弁護士法人のメンバーたる各弁護士が専門分野に特化して仕事をすることができます。法律事務所の中で特許問題はA弁護士が担当し、会社問題はB弁護士が担当するということができます。当事務所におきましては、これまでも弁護士の専門性を意識した事務所運営を行ってきましたが、弁護士法人はこのような運営を下支えするものなのです。経済界からも、弁護士法人を契機に、特許やバイオなど先端分野を巡る紛争など専門的知識を要する法律分野についてより十分な対応が期待されています。
もちろん、弁護士法人は、企業の要請に応えるためだけではありません。法律事務所の中で、各弁護士への仕事の割り振りが上手く行けば、「採算が取れない」との理由で敬遠しがちだった長期間に及ぶ大型訴訟(例えば「薬害訴訟」など)や、少額訴訟(消費者のための訴訟など)にも対応しやすくなるでしょう。
事務所側のメリットもあります。これまで、弁護士が引退あるいは死亡する場合は、事務所を閉めるか、後継者たる弁護士に引き継ぎするための様々な作業が必要だったのですが、1人の弁護士が脱退しても弁護士法人は残りますので、継続的な事件処理ができるのです。
その他、より社会経済に即した裁判を実現するには、弁護士から裁判官に任官することが望ましいという考え方(法曹一元)があるのですが、弁護士法人のメンバーであれば、事務所を休業・閉鎖することなく裁判官に任官することができます。
それから、先ほど述べたように、支店(従たる事務所)を開設することもできますので、弁護士の数が少ない地域へも法律事務所を設けることができ、「弁護士過疎」地域の解消も期待されるのです。
「弁護士法人」の制度は、弁護士が司法の一翼を担う者として、司法サービスの利用者の視点に立ち、十分な職責を果たすための制度であると考えられます。