学校法人が教授の発言等を理由にした戒告処分等が無効とされた事例
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大学教授の新聞紙上での発言等を理由に学校法人が行った戒告処分等が無効とされた最高裁判例(平成19年7月13日)をご紹介します。

事案は以下のようなものです。
ある教授が地元新聞紙上において、「歴史観の押しつけが問題」との見出しのもとに、「(県立の)人権センターの展示内容のほとんどが部落問題でしめられ、残り2割ほどが反日、自虐史観に基づく展示である」などとの発言をしたことが紹介され、これにより大学が辞職を勧奨したが同教授が応じなかったため、戒告処分を行い、教授会への出席その他の教育諸活動をやめるよう要請したものです。

これに対して教授は、戒告処分の無効確認と、(教授会への出席等をやめるよう求めた)要請の無効確認を求めて訴訟を起こし、一審では認容されましたが、二審では、戒告処分についての無効確認請求は棄却され、要請についての無効確認請求は却下されました。

二審においては、本件発言が、大学教授としての研究活動としてされたものではないにもかかわらず、その大学の教授の肩書きを示して行われ、その内容も公的機関である人権センターに対する誹謗ともとられかねないものであり、大学と関係諸機関との信頼関係を損なうおそれがあるとして、戒告処分は無効なものということはできない、と判断されました。
また、教授会への出席をやめるよう要請した点については、あくまで要請であって業務命令と解することはできないとし、命令でないものに対する無効の確認を求めるのは不適法であるとして却下しました。要は、この点は法律上の紛争ではないので裁判にはなじまないという判断です。

これを受けた教授は最高裁上告受理申立をし、最高裁は以下のように判断しました。
戒告処分については、教授の発言は、人権センターの展示内容には偏りがあるという上告人の意見を表明するにすぎず、これが学校法人の社会的評価の低下毀損を生じさせるものとは認めがたいとして、戒告処分は客観的に合理的と認められる理由を欠くものとしてして無効であると判断しました。
教授会への出席をやめるようにとの要請については、使用者としての業務命令であることは明らかであり、無効確認を求める訴えは適法であるとし、裁判になじむ紛争であると判断したうえで、この要請は退職勧奨に応じない教授に対する、制裁的意図に基づく差別的取扱いであるとみられてもやむをえない行為であるとして、無効であると判断しました。

私としては、一審、最高裁の判断が正しいと思いますが、裁判官の価値判断の違いによって、二審のような判断が出るのが労働事件の難しさであるようにも感じます。戒告という軽微な処分の無効が認められた点で興味深い判例です。