大震災と借地借家法(その2)
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<ポイント>
◆借家が滅失すれば、借家契約は終了する
◆再築建物への元借家人の優先借家権など
◆修繕等で住めない場合、家賃支払い義務なし

大震災と借地借家法(その1)で借地契約への影響をご説明しました。
今回は借家契約への影響についてご説明いたします。

地震や火災で借家そのものが「滅失」(全壊とほぼ同意)すれば、借家契約を継続することができなくなるので、当然に終了してしまいます。
そうすると「滅失」したかしていないかは、借家権の有無を決する境目になり、時には判断が難しいケースも出てきます。
その借家が物理的にどの程度壊れて借家の用をなさなくなってしまったか、という物理的な観点と共に、いざ修理するなら建て替えた方が安くつくといえないかなどの経済的な観点から考えなければなりません。
当事者間で争いになれば、最終的には裁判所が判断することになります。

借家が「滅失」の場合に、借家人の一定の保護を図るのが「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下「罹災都市法」)です。
現時点でまだその適用地域を定める政令は出されてはいません。

(1)敷地の優先借地権
滅失した建物の借家人は政令施行の日から2年以内に、借家の敷地の所有者に申し出ることによってその土地を賃借できます。
都市計画法による「換地」の所有者に申し出ることもできます。
敷地にせよ換地にせよ、その土地を正当な権利で現に建物所有目的で使用する者がいないことが必要です。
土地所有者に申し出た後3週間以内に拒絶の返事がないか、拒絶の返事があっても「正当事由」がない限りは、優先借地権が認められます。
期間は10年で更新可能です。
建物建築について建築基準法などにある行政上の許可が必要な場合は、その許可が要ります。
もっとも、この制度によれば元の借家人自ら資金を出して借地上の建物を建てなければなりません。

(2)借地権の優先譲受権
借家が借地上に建っている場合、建物が滅失すれば借家権は消えますが、敷地が「滅失」していない限り、借地権は消えません。
そこで、政令施行の日から2年以内に、借家人が借地権者(または転借地権者)に、借地権を譲り受けるとの意思表示をすれば、優先的に借地権を譲り受けることができます。
正当な権利で建物所有目的で借地を使用するものがいないこと、元の借地権者から拒絶の返事がないこと(あっても正当事由がないこと)、行政上の許可が必要な場合は許可がいること等は(1)と同じです。
譲渡の価格は当事者間で決めますが、決まらなければ裁判所が決定します。
もちろん借地権の代金は、元の借家人が出さなければなりません。
通常は借地権譲渡について地主の承諾が必要ですが、この優先譲受権の場合は、地主の承諾があったものとみなされます。ただ、譲受人(元の借家人)は譲渡を受けたことを直ちに地主に通知する必要があります。

(3)借家人の建物優先賃借権
滅失した建物の借家人は、その敷地(または換地)に、最初に建築された建物について、その完成前に賃借の申出をすることによって、優先的にその建物を賃借することができます。
その建物の所有者が申し出た後3週間以内に拒絶の返事がないか、あっても正当事由がないときは賃借権を主張することができます。
この制度は(2)、(3)との比較すると、借家人保護の点では役に立つものと考えられます。
ただ、ここでは元の家主など建物所有者が資金を出して建物を建てることが大前提となります。
(1)、(2)、(3)ともに共通する問題として、複数の借家人がそれぞれの申出をしてきた場合どうなるかですが、それぞれ権利があるとされており、まずは当事者間の協議になりますが、最終的には裁判所に対して割り当ての申立てをすることになります。

以上が借家が滅失した場合の、借家人保護に関連する法制度です。
まだ借家が滅失に至っていない場合、特約がない限りは、その修繕は家主の責任・費用負担においてなされることになります。
修繕や避難勧告等で借家に住めない場合は、借家人は居住の利益を受けられないわけですから、その間の家賃の支払い義務はないと考えられます。