大震災と借地借家法(その1)
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<ポイント>
◆借地上建物全壊でも借地権はなくならない
◆罹災都市法による借地権存続期間の特例あり
◆借地権の対抗要件の特例も

東日本大震災によって建物が損壊するなど甚大な被害が出ています。
本稿ではまず、土地を借りて、その上に自ら建物を所有する場合、すなわち借地契約に及ぼす影響とその法的手当てについて説明します。

借地上の建物が地震で全壊しただけでは、借地権自体はなくなりません。
したがって借地権者は借地上に新たに建物を建てることができます。
ただし、元々の借地契約の残り期間を超えるような建物を建てる場合、地主が承諾するか、異議を述べないことが必要です(延長の要件や期間は契約開始が平成4年8月1日の前か後かで適用法が変わります)。
そうすると地主の意に反して永続的な建物を建てることは不可能かということになります。
この点、現在、法務省が適用を検討している「罹災都市借地借家臨時処理法」(以下「罹災都市法」)が手当をしています。
つまり同法に基づき政令で指定された地域では、借地権の残りの期間が10年未満なら一律で10年とされます。
なお「正当事由」がない限り契約更新がされるという借地権の保護の規定は変わりません(定期借地権、事業借地権は別です)。
借地権がなくならないということはその半面で、地代支払い義務も続くということです。
ただし、震災の影響で地代が不相当に高いということになれば、一般論としての地代減額請求が考えられます。
さらには罹災都市法上も指定地域においては、裁判所に地代の変更を申し立てることができるとされています。
なお、借地上建物が全壊すれば、そこに設定されていた抵当権もなくなります。
新築された建物に当然に及ぶわけではありません。ちなみに全壊していないならば、抵当権もなくならないので、抵当権者の承諾なしに建物を取り壊すと担保保存義務に反したとして損害賠償を請求されるおそれがあります。

借地上の建物が全壊に至らず、修繕可能であれば、借地権は消滅しませんし、自分の建物なので自ら修繕することができます。
「増改築禁止特約」がある場合、これに違反したとして借地契約が解除されることがあるのが一般論です。
しかし地震で壊れた部分を修繕するのは増改築ではないでしょうし、必要な限りにおいて多少の増改築があっても、それが地主との信頼関係を破壊するから解除、ということにはならないのが通常でしょう。

そもそも借地(敷地)が崩壊していたり、地割れしている場合、修繕可能である以上は、地主が費用負担して修繕する義務を負います(これに反する特約がない限り)。
しかし、地盤沈下をしているなど修繕が不可能である場合は、地主にも修繕義務はありません。
修繕不能で使えないのが敷地の一部ならば地代の減額請求の話になりますが、敷地自体が全く使用できないのであれば、借地契約自体も消滅するのではないかと考えます。行政上の措置で一定の地域に建物が建てられない場合も消滅するのではないでしょうか(私見)。

仮に土地が売買されて土地所有者が変わっても、借地上建物を登記していれば、借地権を主張できます。これを対抗要件を備えているといいます。
しかし、借地上建物自体が全壊するならば、登記だけ残っていても対抗要件はその前提を失ってしまいます。
これを回避するために借地借家法では、元の建物を特定する事柄、全壊日(3月11日)、新たに建物を建てる旨を見やすい場所に掲示すればよいと規定していますが、今回の震災では現実的でないことが多いと思われます。
この点についても罹災都市法による手当がなされています。政令による指定地域では、政令施行日から5年間は、建物の登記等がなくても、その間に土地を取得した第三者に借地権を主張することができます。

ちなみに罹災都市法は借地権者が仮設住宅等に移り住んだからといって適用されなくなるものではありません。

本日現在においては建物の新築、修繕といっても様々な理由で直近の課題ではないかもしれません。
ただ復旧、復興においては必ず直面する問題と考え、基礎的な事柄をご説明しました。借家契約その他については稿を改めます。

なお、自治体の「被害認定」における「全壊」、保険会社の損害判定における「全壊」、借地法上の「滅失」は、それぞれその趣旨を異にし、場合によっては結論が違って混乱することもあります。ただ、本稿では説明をシンプルにするため借地借家法上の建物の「滅失」を「全壊」と言い換えています。
ご了承ください。