大規模小売業者による不当な返品

納入業者に対して優位にある立場を利用し、不当な返品などを強いていた疑いが強まったとして、公正取引委員会が10月7日、家具・ホームセンター大手「島忠」を独占禁止法違反(優越的地位の乱用)の疑いで立ち入り検査したとのことです(10月7日付け日経新聞夕刊)。
私が執筆した2008年7月15日付けメルマガ記事「ヤマダ電機が納入業者に従業員を派遣させた問題について」では、独禁法が禁止する不公正な取引方法(優越的地位の乱用)のうち、「納入業者の従業員等の不当使用等」の問題について取り上げました。島忠は同種の問題についても疑いがもたれているようですが、今回は同じ優越的地位の乱用の問題のなかでも「不当な返品」の問題について解説します。

独禁法は「不公正な取引方法」を禁じています。何が「不公正な取引方法」にあたるかについて同法は定義を定めており、その中に「自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること」というのがあります。もう一段具体的な内容は公取委の告示(一般指定)に定められており、一般指定14項が優越的地位の乱用について定めています。なお、優越的地位の乱用がなぜ禁止されるかというと、そのような乱用的な取引を許してしまうと「自由競争の基盤」が侵されるからであると一般的には考えられています。
ところで、年間売上高が100億円以上か、または売場面積が3000平方メートル(東京23区・政令指定都市の場合。それ以外は1500平方メートル)の大規模小売業者については、納入業者との「不公正な取引方法」の内容が公取委の告示で定められています(特殊指定。「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」)。

その告示の第1項が「不当な返品」に関するものです。同告示の運用基準(平成17年6月29日付け事務総長通達第9号)によれば、例えば、展示に用いたために汚損した商品を返品すること、月末又は期末の在庫調整のために返品すること、セール終了後に売れ残ったことを理由に返品することなどが不当な返品にあたるとされています。

ただ、同告示は正当な事由のある一定の場合を不当な返品から除外しています。
1 納入業者の責めに帰すべき事由がある場合に妥当な期間・範囲内で返品する場合。
商品違いや瑕疵ある商品の場合がその典型例です。
2 商品の購入にあたって納入業者との合意で返品の条件を定めており、その条件に従って返品する場合。
商品購入後に納入業者と合意したとしてもその返品は認められません。運用基準によれば、ここでいう合意というのは、納入業者との十分な協議の上に納入業者が納得して合意しているという趣旨であるとされています。単に事前に一筆交わしておいたから許されるというものではなく、やはり内容的にみて自由競争的な「正常な商慣習」の範囲内のものに限られます。
運用基準は「大規模小売業者がメーカーの定めた賞味期限とは別に独自にこれより短い販売期限を定め、この販売期限が経過したことを理由として返品すること」が不当な返品に該当し得るとしつつ、「消費者が通常、商品購入後、賞味するまでの一定期間を要することを考慮して短期間の賞味期限を残して返品する場合」で、事前の合意で返品条件を定めていた場合はあたらないとしています。ただ、そのような除外例は稀なはずです。なぜなら消費者はメーカーの賞味期限をみて食べるかどうか判断するからです。ダブルスタンダードに合理性がないのが通常でしょう。
また運用基準は「大規模小売業者の独自の判断に基づく店舗や売場の改装等を理由に返品すること」も不当な返品に該当し得るとしつつ、「季節商品の販売時期の終了時の棚替えに伴う返品」で、事前の合意で返品条件を定めていた場合はあたらないとしています。
3 あらかじめ納入業者の同意を得て、かつ、返品によって納入業者に通常生ずべき損害を大規模小売業者が負担する場合。
ここでいう同意も「仕方なく」の同意ではダメということになります。またここでいう通常生ずべき損害とは、商品価値の下落分や、返品にかかる費用、廃棄処分費用などをいいます。
4 納入業者から商品の返品を受けたい旨の申出があり、かつ、当該納入業者が当該商品を処分することが当該納入業者の直接の利益となる場合。
運用基準によれば、例えば、「納入業者が新商品の販売促進のために、大規模小売業者の店舗で売れ残っている自己の納入した旧商品を回収して、新商品を納入した方が納入業者の利益となるような場合」をいうとされています。

このようにみてくると、民商法上の債務不履行責任や瑕疵担保責任に基づく返品のほかは、対等な取引関係を前提としてお互い納得のうえで行う返品以外は不当な返品ということになるといえます。

食料品スーパーである株式会社マルキョウは2008年5月23日、商品回転率が低いことなどを理由に不当な返品をしたとして、公取委から排除措置命令を受けています。同命令でマルキョウは今後そのような返品を行わないことなどを取締役会で決議し、取引先に通知、従業員に周知徹底することなどを命ぜられています。