大和銀行株主代表訴訟

【頭取らに829億円賠償を命ずる判決】
1995年に発覚した大和銀行ニューヨーク支店の巨額損失事件を巡り、同行の株主が当時の取締役ら49人に対して、損失した約11億ドルと捜査当局に支払った罰金など3億5000万ドルの総額14億5000万ドル(約1550億円)を賠償するよう求めた株主代表訴訟の判決が9月20日、大阪地裁でありました。裁判所は、株主側の訴えを一部認め、当時ニューヨーク支店長だった元副頭取に単独で5億3000万ドル(約567億円)を、また、ニューヨーク支店長を含む現・元役員ら11人に計約2億4500万ドル(約262億円)を支払うよう命じました。
株主代表訴訟では、前例のない巨額の損害賠償が命じられました。

【大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件】
大和銀行ニューヨーク支店の元嘱託行員がそれまでの11年間にわたってアメリカ国債の不正な簿外取引で約11億ドルの損失を出し、95年7月に元行員から当時の取締役にあてた告白状で発覚しましたが、大和銀行はその直後、損失を伏せたままの資産報告書をアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)に提出しました。
そのため、同行は、重大事件を知りながらアメリカ当局への通報を怠った「重罪隠匿」や損失を隠すためFRBに虚偽の報告をしようとした「共同謀議」など24の罪で起訴されましたが、同行は96年2月、16件の有罪を認め、残りの起訴を取り下げてもらう司法取引に応じ、3億4千万ドルの罰金を支払いました。この事件で同行はアメリカからの全面撤退を余儀なくされました。

【株主代表訴訟】
ここで、株主代表訴訟という制度について説明します。
株主代表訴訟の特徴は、株主が会社を代表して取締役らの責任を追及するという点にあります。
株式会社のオーナーは株式を有している株主です。
代表取締役ら取締役は、オーナーである全株主から経営のプロとして会社経営を委託されているという関係にあります。
経営を委託されている以上は、取締役は、全株主に対して適正な注意をもって会社を経営し、また会社財産を管理する義務があります。
ところが、取締役が時には、このような義務に違反し、会社に財産的損害をもたらすことがあります。
このとき、株主が会社を代表して取締役に対する責任追及することができるようにしたのが、株主代表訴訟です。
つまり、株主が会社に代わって、取締役に対して、その財産的損害を会社に回復しろということができるのです。
株主の手元に直接お金が入ってくるわけではありません。
現在の法律では、訴え提起の6か月前から引き続き株式を有している株主であれば誰でも、訴訟を起こすことができます。
また、平成5年の商法改正で、裁判所に納める手数料が、それまで請求額に応じて決まっていたのが、一律8200円とされたため、訴えを起こしやすくなっています。
実際、改正後提訴が急増しており、昨年末現在で全国の高裁と地裁で計286件が審理中です。

【二つの責任】
今回の判決で問題になったのは、取締役らの二つの責任です。
まず、第1点として、元行員が11億円の損失を出したことについての管理責任です。
裁判所は、この点について、「大和銀行ニューヨーク支店の証券保管残高の確認方法が、著しく適切さを欠いていた」などと指摘し、「元行員の不正の機会を与える結果になった」と判断。
当時のニューヨーク支店長だった取締役にのみ「保管残高の確認を極めて不適切な方法で行い、適切な方法に改めなかった点で、任務を果たしていなかった責任がある」と、不正行為を発見または防ぐ責任を認め、踏み込んだ判断をしました。
従来の大企業についての株主代表訴訟では、総会屋に対する利益供与や、政治家に対する贈賄など取締役自らが不正な行為に深く関与した場合について、取締役の責任が認められたのが大半でした。
しかし、今回の判決では、社内のリスク管理を怠ったことを注意義務違反と捉えており、その点でも画期的な判決と言えます。
次に、第2点として、アメリカでの司法取引で有罪を認め罰金を払ったことについては、当時の取締役11人に「法令に違反してアメリカでの報告を怠ったのは不適切な経営判断」として、それぞれの責任の度合いに応じて、計2億4500万ドルを連帯して支払うよう命じました。
取締役らは「大蔵省の要望、示唆に反してアメリカ当局に報告する期待可能性がなかった」と主張しましたが、裁判所は「大蔵省が取締役らに対し、権限に基づき、アメリカ当局に対する報告をしないよう指示ないし命令したと認めるに足りる証拠はない」とする一方で、取締役らが「我が国内でのみ通用する非公式のローカル・ルールに固執し、大蔵省銀行局長の威信を頼りとして大和銀行の危機を克服しようとして、アメリカ当局の厳しい処分を受ける事態を招いた」と判断しています。

【本判決の影響】
本判決は、会社経営を預かる取締役に極めて重い責任を課し、取締役にリスク管理の徹底や法令遵守の経営を迫るものです。
しかし、大企業の取締役は、サラリーマンが企業内で出世した人が大半であり、その取締役が生涯会社から受け取る給与・報酬を大きく超える金額の賠償を命じる今回の判決に対しては、企業から制度の見直しを求める声もあがっています。
現行商法については、2年後の抜本改正が予定されていますが、自民党や財界では、(1)違法行為を知ってから株式を取得した株主は株主代表訴訟を起こせないようにする。(2)取締役の損害賠償責任額は、最大でも取締役の報酬の2年分以内に押さえることができるなどを柱にした改正案を検討しています。
他方で「株主の権利を不当に侵害することにつながりかねない。」との慎重論も強く出ています。