国際契約に関する裁判で不利にならないために
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<ポイント>
◆準拠法を日本法とするより、管轄裁判所を日本とする方を薦める
◆訴えを起こすことを想定しない場合には準拠法や管轄裁判所を決めない方が有利な場合も
◆中国、台湾企業との契約では管轄裁判所を被告国とすることや仲裁の利用も検討すべき

以前、国際売買基本契約における独占的販売権、最低販売量などの取引上の重要ポイントを解説しましたが、国際契約ではどこの国の法律を適用し、どこの国の裁判所で裁判をするかも重要です。
国際契約で互いの権利、義務を定めていても、紛争になった場合に裁判所でその権利、義務を認めてもらえなければそれらの定めは無意味になりかねません。
どこの国の法律を適用するかについて、適用国の法律を「準拠法」といいます。たとえば日本法、カリフォルニア州法です。
また、裁判をする裁判所を「管轄裁判所」といい、大阪地方裁判所やフランスの裁判所(the courts of France)などと決めます。管轄裁判所については契約当事者双方の国や第三国の裁判所を含めて複数決めることも可能ですが、ここでは唯一の管轄裁判所(exclusive jurisdiction)を決めることを前提とします。
国際契約の当事者は、双方とも、紛争になった場合に自国の裁判所で自国の法律を適用して解決する規定にすることを希望するのが通常です。
自国の弁護士に依頼できるのでコミュニケーションの負担もなく、費用も安くすみます。また、紛争の結論の見通しもつきやすくなるからです。
しかし、お互いが全く譲歩しなければ契約は成立しないために、準拠法と管轄裁判所のどちらかを譲るという妥協的な内容になることがよくあります。その場合に何を重視すべきかを理解しておくことは重要です。

たとえば、準拠法は日本、管轄裁判所は外国裁判所とする例があります。この場合、外国の裁判所が日本法を正しく理解して適用できるとは限りません。また、外国の弁護士に日本法を教えるためのコミュニケーションの費用がかかり、日本企業にとって有利とはいえない場合が多いでしょう。
また、訴えられる側(被告)の国の法律を準拠法とし、その国の裁判所を管轄裁判所とするという例もあります。この場合、契約当事者のどちらが訴えるかによって準拠法が異なり、結論も異なる可能性があります。
それに加えて、双方当事者が相手国で裁判を起こして双方とも勝訴するなど、それぞれの裁判所の判決が矛盾する場合がありえます。そうすると、双方の判決をどう取り扱うべきか解決困難な問題が生じ、結局裁判が役に立ちません。
したがって、このような例も日本企業にとって望ましいものとはいえないでしょう。
そうすると、準拠法と管轄裁判所のどちらかを譲歩するとすれば、原則としては、管轄裁判所を日本企業が望む裁判所にする方がいいということになります。

準拠法と管轄裁判所を決めずにおくという選択はどうでしょうか。
管轄裁判所を決めずにおく場合、外国企業が日本企業を訴える際には、被告(日本企業)所在地である日本で裁判を行わなければならないことも少なくなく、準拠法も決めていなければ、多くの場合に日本法が準拠法となります。
しかし、日本企業が外国企業を訴えるのであれば、逆に、外国で訴訟をしなければならず、また当該外国法が準拠法となることが多くなります。
したがって、日本企業が原告として訴えを提起することを想定しない場合には、管轄裁判所を相手国とするくらいなら、準拠法と管轄裁判所を決めずにおいた方が日本企業にとって有利となりえます。
なお、動産売買契約については、ウィーン売買条約が適用される場合があるので、これを排除したい場合には契約書で明確に同条約を排除する旨(オプト・アウト)を規定しなければなりません。日本法が準拠法となる場合も日本はウィーン売買契約の締約国ですから同様の対応が必要です。

注意しなければならないのは中国と台湾の企業との契約です。中国とは相互に相手国の判決を有効にするとの保証(相互の保証)する関係にないし、台湾とは正式な国交がないため判決の前提となる訴状の送達が困難な場合があるからです。
そのため、管轄裁判所を日本としても、日本の裁判所で得た判決を中国で有効なものとして執行することができません。
台湾についても、日本から訴状の被告(台湾企業)に送達ができず、被告が日本の裁判所に出頭しないと判決を取得できません(公示送達による判決を取得できる場合がありますが、それでは台湾で有効なものとして執行できません)。
しかも、管轄裁判所が日本の場合には、中国や台湾の裁判所に訴えを提起できないと判断されるリスクもあります。
そうすると、管轄裁判所を日本とすることにメリットはないことになり、国際裁判管轄を日本とすることにこだわらずに被告の国とした方がいい場合もあります。
また、中国や台湾の企業との国際契約については裁判ではなく日本での仲裁で紛争解決をすることにすれば、原則として日本の仲裁廷での仲裁判断は中国や台湾でも有効です。
ただ、仲裁は訴訟に比べて手続き費用が高額となるので、その点は留意しなければなりません。