国際合弁契約を解消するとき
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<ポイント>
◆合弁解消を念頭において合弁契約をするべき
◆一定の損失が生じた時や合意形成ができないときは解散できるようしておく
◆株式買取請求についてはその要件と価格算定手続が重要

昨今の円安傾向から製造業の国内回帰の兆しもあるようですが、それでもASEAN諸国への製造拠点の移転やその購買力の取り込みのための小売業等の進出は今後も続いていくことと思います。
そのような進出に伴い合弁契約を結んでその国で会社を設立することが行われます。合弁相手は日本企業のことも、現地企業のこともあります。
その際によく問題となるのは出資比率や会社の運営、たとえば重大な案件は出資者全員の同意を要するなどのことですが、その事業が失敗したときにどうするのかという点についてはきちんとした議論をしないで合弁契約を結ぶことも多いと思います。
しかし、外国での事業は日本と違う環境で行われるのですから思い通りにいかないことの方が多く、事業が失敗したときにどうするかを十分に検討しておかなければなりません。
失敗と述べましたが、合弁相手との関係や事業環境の変化に伴い合弁契約を解消する場合も同様です。
なお、合弁会社も株式会社が多いことから本稿では株式会社を念頭に述べます。

まず、合弁契約で会社を解散できる場合を決めておくことが考えられます。
合弁事業が開始されると資本金だけでは運転資金が足りず、株主からの貸付金や株主の保証による金融機関からの借入れにより運転資金が賄われることはめずらしくありません。
また、株主からの原材料などを購入し、売掛金の支払時期を遅くすることにより資金繰りをすることもよくあります。
事業が順調でこれらの貸付金の返済や売掛金の支払いが進めば問題ありませんが、資金不足となる度に追加支援を迫られることは想定しておかなければなりません。
そのような場合、追加支援をせずに会社を解散する方が損失は少ないと判断されることがあり、その判断を合弁相手が同意しない場合があります。
会社の解散は定款で要件が定められることになりますが、外国においても少なくとも株式の過半数を有する株主の賛成がないと通常は解散できません。
自ら保有する株式だけでは解散できない場合に備えて、たとえば、累積損失額が出資金額の何割かまたは何倍かを超えたときは一方が解散を求めた場合には他方は同意しなければならないと決めておくことが考えられます。
合弁事業が失敗していないとしても、2社の合弁で出資比率が50%の場合には株主全員が同意しないと重要な事項が決められないことになります。
このような場合、一定の重要案件について議案が提出されて何十日または何ヵ月間可決しない場合には上記と同様の解散に関する規定を定めることが考えられます。

次に、株式の買取請求や譲渡請求について決めておくことが考えられます。
前述したように事業が順調に進まない状態でなくとも、合弁契約を解消したいという事態が生じます。合弁相手との信頼関係が維持できない場合などが考えられます。
このような場合に備えて、予め、株式の買取りのための手続を決めておく必要があります。
問題はどういう場合に、相手に株式を買い取らせる、または、相手に株式を譲渡させることができるとするかです。
これには大きく分けて一方当事者のみが権利を有する場合と双方が権利を有する場合があり、その権利行使の要件としては色々なバリエーションが考えられます。
国際合弁契約の場合には、外国のパートナーと協同しなければ単独で外国での事業を行うことが困難であるために合弁事業とする場合もあり、そのような場合には日本企業が相手企業に求めたときは、相手企業は株式全部の買取義務を負うとの規定が考えられます。
株式の価格としては会計士の査定による純資産額を基準とすることが多いと思いますが、その会計士の指名方法についても予め決めておくことが考えられます。
私の経験した規定例として、一方は他方に1株あたりの買取価格を提示して相手保有の全株式の買取りを求めることができるが、それは同時に自ら保有する株式の譲渡を求めるものであり、他方はどちらかを選択できるというものがありました。
株式の買取請求や譲渡請求に関する条項は当事者の利害が衝突する場面であり容易に合意にいたらないものであることを考えれば、一つの案として参考になると思われます。

上記の合弁事業を解消する際の規定は国内の共同事業契約においても妥当するものではありますが、国際合弁契約においては、破産手続を含めた裁判手続が有効に機能するのかとの心配や弁護士費用などの手続費用が高額になるなど、国内での合弁事業とは異なる観点が必要となります。
また、国によっては労働者への支払いがなされない場合のペナルティが日本より重いこともあり、早急に解散をして事業を中止する必要が生じる場合もあります。
ASEANの国によっては、小売や商社などの事業は相手国資本が過半数でなければならないなどの制約がある場合もあります。
これらの観点からすれば、国際合弁契約においては、解散や株式買取請求に関する規定を定める必要性は国内契約に比して非常に高いといえます。