出願後特許成立前の仮ライセンス登録制度
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特許法の改正により今年(2009年)4月から、特許出願後・特許成立前の段階で「仮」ライセンスの登録が可能になっています。仮通常実施権、仮専用実施権の登録制度です。
特許成立時に自動的に正式な実施権に移行します。
特許成立前の段階から実施権の登録を認めることでライセンシーの権利を強化し、ひいては新技術の早期活用をうながすというのが法改正のねらいです。

特許成立前の段階でも契約によりライセンスを設定すること自体はもともと可能でした。
しかし、契約当事者間で通用する権利関係を超えてライセンシーが第三者にも権利主張できるようなライセンスにするには特許庁での登録が必要です。
専用実施権(独占的なライセンス)は特許庁で登録しないとそもそも権利が発生しませんし、通常実施権(非独占的なライセンス)は契約のみで設定できるもののライセンシーが第三者に権利主張するためにはやはり特許庁での登録が必要です。
しかし、従来はライセンスに関する登録は特許成立後でないと認められませんでした。
このため、特許成立前にライセンス契約してあっても、発明者が特許を受ける権利を第三者に譲渡してしまった場合ライセンシーは譲受人にライセンスを主張できなくなります。
ライセンシーは契約で権利設定を受けたはずなのに、特許を受ける権利の譲受人から差止請求を受けたり補償金請求を受けたりすることになります。
また、発明者が特許成立前に倒産してしまった場合、管財人にライセンス契約を解除されるおそれがあります。
わざわざライセンス契約をしてもライセンシー側にはこのようなリスクがあるため、発明自体に実用的な価値があっても特許成立前にはライセンス交渉がまとまりにくいケースも生じます。技術はあるが財務基盤・信用力が盤石でないベンチャー企業の場合に特に問題です。ライセンスの設定ができずに結局特許を受ける権利自体を安値で手放さざるをえないということにもなりかねません。
これでは新技術の早期活用が妨げられ、発明者側の投下資本回収もすすみません。

新たに導入された制度を利用して仮通常実施権、仮専用実施権として登録をしておけば、発明者が特許を受ける権利を第三者に譲渡してもライセンシーは譲受人にライセンスを主張できます。
また、発明者が倒産した場合にも管財人にライセンス契約を解除されるおそれがなくなります。倒産法は使用収益に関する権利が登記・登録により第三者にも主張可能となっている場合について管財人の解除権を制限しているためです。

こうした権利の強化により特許成立前でもライセンス契約をしやすくし、新技術の早期活用を促進しようというのが新制度の趣旨です。
仮通常実施権、仮専用実施権を登録しておき、その後特許が成立すればこれらの権利はそのまま正式な通常実施権、専用実施権に移行して特許庁が職権でその旨を登録してくれます。

なお、こうした仮実施権の登録制度の導入のほかに、実施権に関する登録事項からライセンス料に関する事項が除外され、一部の登録内容について利害関係人でなければ特許庁に開示請求できないとする法改正も一緒に行われています。
企業秘密にしておきたいような事項について一般への開示がされないようにするものです。実施権を登録しても技術開発の方針などが外部にバレにくいようにし、ライセンスによる技術活用を促進しようというねらいです。
仮実施権について登録制度を拡張する一方で、登録内容や開示請求権者の範囲については縮小しているわけですが、ライセンス制度の不便なところを改めて技術の活用を促進しようというねらいは共通しています。